2020年12月11日

第80回「タイ市場の潜在力注目」

新たな供給網
11月、日中韓、ASEAN諸国など15カ国が東アジアの「地域的な包括的経済連携(RCEP)」に署名した。アジアに巨大な自由貿易圏が誕生することにより、コロナ後の経済回復へ重要な役割が期待されている。

ASEAN地域が「面」となるため、例えば日本から素材・部材をASEANに供給し、そこで部品加工、さらに中国・韓国に輸出するような場合でも特恵関税の適用を受けやすくなるメリットがある。また各国間での原産地規則の調和や貿易円滑化措置により新たな供給網構築のチャンスが生まれる。

タイは、2019年のASEAN議長国であり、ASEANのまとめ役として大きな貢献を果たし、今年のベトナムに引き渡した。タイは、地理的に扇の要に位置し、労働集約型業務を近隣国に移設する“タイプラスワン”の流れから、陸路でつながるカンボジア、ミャンマー、ラオス、ベトナムの4カ国(CMLV)が有する産業集積地、成長消費市場としての巨大なポテンシャルを有する。タイは人口6億人を超えるASEAN経済圏の中心に位置し、GMS(大メコン圏)は、“陸のASEAN”と呼ばれ、2億3000万人が暮らす巨大マーケットが存在する。

今回のコロナ禍により、中国を中心とする供給網の見直しが表面化し、改めてタイの役割が一考されるに至った。タイでは、日系企業の自動車を中心とした産業集積がすでに存在しており、日本の大学もタイに50大学以上が何らかの拠点を構えており、将来への投資への安心材料でもある。

デジタル発展
タイでは、産業構造の高度化を図る国家プロジェクト「タイランド4.0」の中で、中核となる「東部経済回廊(EEC)」は、成長著しいアジア諸国への玄関口と期待されており、イノベーション(EECi)やデジタルパーク(EECd)などの東部臨海工業地域の3県の再開発を通して先端技術産業を目指している。

日本のデジタル庁設立よりも早く、タイではデジタル経済社会省が存在しており、このデジタル分野での発展は目を見張るものがある。中国の「一帯一路」の延長上で、ファーウェイ、アリババ、テンセントなどの中国企業もタイで活発である。

日中第三国市場協力フォーラム(北京)では、日本企業などとのタイ協力案件も議論されたところ。中小企業のタイ進出に当たっては、東京都中小企業振興公社、東京都立産業技術研究センター、日本貿易振興機構(ジェトロ)、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)、国際協力機構(JICA)などのオフィスがバンコクにあり、支援体制は構築済みである。

※本記事は 日刊工業新聞2020年12月11日号に掲載されたものです。

宮崎 芳徳 CRDS特任フェロー(海外動向ユニット)

東京大学大学院工学系研究科修士課程修了。米国スタンフォード大学PhD取得。工業技術院、産業技術総合研究所で、地球科学、エネルギー、科学外交などに従事。タイ国のNSTDA(科学技術開発庁)、TISTR(科学技術研究所)を経て、20年より現職。タイ在住。

<日刊工業新聞 電子版>
科学技術の潮流(80)タイ市場の潜在力注目(外部リンク)