2020年11月27日

第78回「米新政権、クリーンエネ注力」

今年の米国大統領選挙は接戦の末、11月8日(日本時間)に民主党候補のバイデン氏が勝利宣言をした。現職のトランプ大統領が結果を受け入れていないという不確定要素はあるものの、政権移行に向けたプロセスは着々と進められている。

バイデン氏は選挙戦を通じ、新たな政権の下で米国を「より良く復興(ビルド・バック・ベター)」すると訴え、トランプ政権からの路線転換を強調してきた。科学技術政策上の優先事項やアプローチも大きく変化する可能性がある。

パリ協定 復帰へ
政策提案の中核に位置付けられているのが環境・気候変動問題への取り組みである。バイデン氏は2050年の温室効果ガス排出実質ゼロを目標に掲げ、米国を地球温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」へ復帰させる見込みだ。

目標達成に向け、クリーンエネルギーのインフラに4年間で2兆ドルを投資することや、クリーンエネルギー技術の導入促進のため4年間で4000億ドルの政府調達を充てることも打ち出している。

先端技術についても4年間で3000億ドルを投資する。ここでも、研究開発領域として人工知能(AI)や第5世代通信(5G)などに加え電気自動車を挙げるほか、国防高等研究計画局(DARPA)をモデルとした「気候高等研究計画局」の新設を提案するなど、環境・気候変動問題に資するイノベーション創出が随所に盛り込まれている。

国際・科学重視
短期的には、依然感染拡大が深刻な新型コロナへの対応が急務である。勝利宣言の翌9日には早くも対応タスクフォースの発足が発表された。対応に当たっては「フィクションではなく科学を選択する」と、専門家の科学的助言を政策に取り入れることを明言している。世界保健機関(WHO)からの脱退も撤回すると見られる。

一連の政策方針に共通するのは、国際協調と科学的知見を重視する姿勢だ。さまざまな地球規模課題の顕在化、科学研究のグローバル化といった潮流に沿うものであり、今のところ米国の科学界はおおむね新政権を歓迎している。

ただし、予算編成権を握る連邦議会で引き続き共和党が上院多数を占めることになれば、施策の実現は楽観視できない。また、国際協調を図る上でこれまで強硬に臨んできた中国とどのように向き合うのかも課題である。こうした点も含め、政権のかじ取りを注視したい。

※本記事は 日刊工業新聞2020年11月27日号に掲載されたものです。

長谷川 貴之 CRDSフェロー(海外動向ユニット)

JST入職後、地域事業、情報事業、国際事業、日本学術振興会出向などを経て、18年より現職。米国の科学技術政策動向調査を担当。

<日刊工業新聞 電子版>
科学技術の潮流(78)米新政権、クリーンエネ注力(外部リンク)