2020年11月6日

第75回「CO₂回収利用でエネ変革」

コロナの影響
国際エネルギー機関(IEA)のリポートによれば、2020年における新型コロナパンデミックによる全世界のエネルギー需要減は6%、それに伴う二酸化炭素(CO2)排出減少量8%(約2.5ギガトン〈ギガは10億〉)は09年金融危機時0.4ギガトン減の約6倍に上ると推定されている。交通部門の落ち込みが特に目立つが、全世界でこれだけ強制的・自主的に行動制限しても10%程度の減少に留まるということは、我々の生活や経済活動がいかに幅広くエネルギーに依存しているかの証左と言えよう。

今後もCO2削減を継続していくためには、化石資源に依存したエネルギーシステムの構造的な転換が必要であり、その実現には技術革新のための中長期的な研究開発投資が必要である。

投資の不確実性
一方、今回のパンデミックの影響によるエネルギー関連投資は19年の20%減と予想されており、今後の投資継続への懸念が出てきている。

このことは研究開発投資のみならず、エネルギーシステム構造の転換のための設備、インフラ投資、例えば再生可能エネルギー由来電力、水素などのクリーンエネルギー導入のための投資にも影響を及ぼしていく可能性がある。

こうした背景の下、先進諸国では政府主導により研究開発投資の支援、新規インフラ・設備への投資計画公表など、これまでのエネルギーシステム変革の動きを継続する対応が取られている。

将来に向けた技術の中でインフラなどに対する投資の不確実性を緩和するという観点で見れば、CO2回収利用技術(CCU)のような排出CO2を回収し循環的に利用する技術、特に炭化水素系燃料の製造技術の活用に注目したい。

この技術でメタンや合成燃料など従来同様な燃料を製造すれば、既存のインフラ・利用機器を活用しつつ、従来燃料への混合利用で段階的CO2削減が可能となり、仮に新しいインフラ・利用機器導入に支障があってもCO2を排出しないエネルギーシステムへの転換が可能になる。CCUはコストならびに研究開発のハードルが高いエネルギー技術であるが、エネルギーシステムへの柔軟な転換を支えるキー技術として新たな発想からの研究開発推進が必要と考えている。

※本記事は 日刊工業新聞2020年11月6日号に掲載されたものです。

尾山 宏次 CRDSフェロー(環境・エネルギーユニット)

東京大学大学院工学系研究科修士課程修了。石油会社で主に自動車燃料品質などの研究開発に従事。14年より現職。環境・エネルギー分野の研究開発戦略立案を担当。博士(工学)。

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科学技術の潮流(75)CO2回収利用でエネ変革(外部リンク)