2020年10月16日

第72回「コロナ感染 換気・空調で防ぐ」

室内に漂う飛沫
世界中で社会問題となっている新型コロナウイルス感染症に対応していくためには、医学、薬学、疫学、衛生工学、化学など、さまざまな方面からのアプローチが必要であろう。

今回の新型コロナウイルス感染症は潜伏期間が長く、無症状のままウイルスを保有する人も多いと言われており、身の回りに感染者がいるのか否かが容易には分からない。そのため周囲の人との距離が十分にとれない場合は飛沫を介した感染を防ぐことが必要になる。

一般に、飛沫はサイズが小さいほど長い間室内に漂うことが知られている。これを吸い込まないためには、換気や空調を通じて空気の流れを制御することが重要と考えられている。

中国広州市におけるレストランでの集団感染を発端に、感染症対策のための空調設備の在り方が問われたように思う。その後、アメリカ暖房冷凍空調学会では、換気量の確保とフィルターによる濾過が適切に機能することで、感染リスクを低減させることができると主張している。

分野横断し連携
また飛沫の動きを予測するための研究として、最新のスーパーコンピューターである「富岳」を使った飛沫拡散シミュレーションが記憶に新しい。このように、情報工学・流体力学・衛生工学を連携し、既存の知見と最新技術を組み合わせていくような取り組みを行っていくことは、今後ますます重要となる。

コロナ禍の収束に向けた対策や解決手段はいまだ十分ではない。換気方式や空調制御の研究はこれまでも行われていたが、それが実際に新型コロナウイルスの感染リスクをどのように低減させるかなど、現段階で明らかになっていないことは多い。

最も大切なことは感染リスクを下げることである。その実現に向け、一つの領域で解決できない課題があるならば、分野横断的な取り組みが不可欠となる。医学・疫学・工学の連携研究を進めるなど、横断的取り組みを促進することが今後ますます重要になるのではないだろうか。

JST研究開発戦略センター(CRDS)のウェブサイトに掲載している新型コロナウイルス感染症に関するショートリポート「都市環境と感染症」編では、飛沫感染や接触感染に関する重要な論文や、各学会での動向を紹介している。

※本記事は 日刊工業新聞2020年10月16日号に掲載されたものです。

徳永 友花 CRDSフェロー(環境・エネルギーユニット)

東京大学大学院工学系研究科建築学専攻修了。専門は建築環境工学。2019年より現職。工学基盤強化に向けた調査に携わる。博士(工学)。

<日刊工業新聞 電子版>
科学技術の潮流(72)コロナ感染、換気・空調で防ぐ(外部リンク)