2020年10月9日

第71回「データ駆動型で材料創製」

MIからPIへ
材料開発に対する要求がますます高度化する中、マテリアルズインフォマティクス(MI)に期待が寄せられている。MIは、計算科学やシミュレーション、実験から得られたデータを活用して、機械学習などのデータ科学により物質・材料の物性を予測・設計するもので、電池材料、半導体材料、触媒材料などさまざまな例で研究成果が出始めている。

しかし、従来のMIは「所望の特性を得るにはどんな材料を用意すべきか?」という答えを与えてくれるが、「それをどうやって作るか?」は教えてくれない。今後は「本当に作れるのか? どうやって作るか?」という問いに対してデータ科学を活用し合成プロセスを設計していくアプローチ、つまり、プロセスインフォマティクス(PI)が必要になる。

合成プロセスは、非常に多数のパラメーターが関与する上、メカニズムが必ずしも明確でないため、詳細な設計が困難である。また、データ科学活用のためには多量のプロセスデータが必要であり、産業界には多くのプロセスデータが存在するものの、技術流出防止の観点からそれを社外に開示することができない。このような点がPIを実現する上での障害となっている。

産学連携体制
一方で、PI実現に向けた有用な研究成果がいくつか出始めている。計算科学を駆使した未知反応まで含む網羅的データベースによる反応経路自動探索、ハイスループット実験による材料組成とプロセス条件の同時最適化、汎用ロボットを活用した実験者の自動化、複雑な多段階プロセスを最適化するアプローチなどがその例である(これらの研究事例については、オンライン開催中の「イノベーション・ジャパン2020」CRDSストリーミングセミナーの中で解説している)。

また、合成プロセスの状態をその場で正確に把握することを可能にする先端計測技術、それに伴って発展しつつある計測インフォマティクスも重要な要素である。

これらの研究成果・技術を有機的に組み合わせ発展させること、また企業内データの利活用を促進する産学連携体制を構築することこそが、PIを核とするデータ駆動型の物質・材料創製に向けた第一歩となる。

今後、材料に対する要求はさらに高度化する。データ駆動型の物質・材料創製を我が国が率先して推進することはきわめて重要である。

※本記事は 日刊工業新聞2020年10月9日号に掲載されたものです。

福井 弘行 CRDSフェロー(ナノテクノロジー・材料ユニット)

東京大学大学院工学系研究科修士課程修了後、旭化成入社。触媒、機能性材料などの研究開発に従事。同社、先端技術研究所長、高機能マテリアルズ技術開発センター長を経て、2020年より現職。ナノテクノロジー・材料分野の研究開発戦略立案を担当。博士(工学)。

<日刊工業新聞 電子版>
科学技術の潮流(71)データ駆動型で材料創製(外部リンク)