2020年9月11日

第67回「工学基盤、資産を有効活用」

産業デジタル化
モノづくりにおけるイノベーションは工学の基盤的な技術が支えている。産学官が連携して資産(ヒト・モノ・カネ)を長期的視点に立って有効に活用する仕組みを構築することが、イノベーション創出の源泉となり、ひいては国の科学技術力の基盤となる。

ドイツではインダストリー4.0を掲げ、産業界のデジタル化を進めている。その中心的な推進主体の一つで、日本の産業界や大学などとも関係が深い公的研究機関としてフラウンホーファー研究機構がある。年間約20億ユーロ(約2300億円)もの研究資金を有し、多くの人材を集めて研究開発を進めている。

産学官連携の架け橋としての役割も果たしている。筆者が昨冬訪れた生産技術研究所(IPT)は同機構に属する研究所の一つで、アーヘン工科大学に併設された施設内にある。

この施設では研究所と大学の人材が日常的に交流するため、フラウンホーファーIPTを介した産学連携が促進される環境がある。また、充実した設備と1200人のスタッフを擁する同施設では、工学基盤技術を駆使したさまざまな研究に従事できる。

ここでの主たる研究領域の一つは、デジタル技術を用いた高度な加工技術である(図)。

これは、従来の主たる技術である切削・研削・成形の現象・理論的解明と、それらを制御するデジタル技術を組み合わせ、高度に進化させた加工を可能にしていくテーマである。

このようにドイツでは、工学の基盤技術に関わる設備投資とそれに携わる研究員および技術員の雇用が充実している。また、おのおのの役割分担が明確であり必要に応じて分野間での連携が可能である。これは、工学基盤分野でのマネジメント(戦略的な研究課題、資産の管理体制)がよく機能している状態とも言える。

日本の課題
モノづくりでイノベーションを起こし続けるためには高い技術力が必要であるが、日本国内の技術力維持・強化にはさまざまな課題が残る。最新設備の取り扱いやメンテナンスの問題、技術職員の確保、産学官の連携など、日本では数多くの課題について、役割と責任の所在が不明確である。限られた資産を有効に、かつ、戦略的に利用するため、まずはおのおのの役割分担を明確にし、工学基盤をマネジメントできるシステムを構築することが求められている。

※本記事は 日刊工業新聞2020年9月11日号に掲載されたものです。

徳永 友花 CRDSフェロー(環境・エネルギーユニット)

東京大学大学院工学系研究科建築学専攻修了。専門は建築環境工学。2019年より現職。工学基盤強化に向けた調査に携わる。博士(工学)。

<日刊工業新聞 電子版>
科学技術の潮流(67)工学基盤、資産を有効活用(外部リンク)