2020年8月21日

第64回「中国、デジタルインフラ構築」

コロナ収束貢献
昨年末に武漢で初めて確認された新型コロナウイルスは、その後中国各地でも流行した。中国政府は、トップダウンによる感染地域・感染者の徹底した隔離、厳しい外出・移動の制限により感染拡大を早期に封じ込めたとされる。

パンデミックの早期収束に貢献したのは、中国のデジタルインフラだったと言われている。感染症対策には、人工知能(AI)やビッグデータ(大量データ)分析技術が導入され、感染者の発見・報告・隔離・治療が迅速かつ厳重に実施された。医療現場では、無人スマートロボットが消毒を行い、パトロールロボットが検温を行った。

また、特定の施設に入る際や区域を移動する際には、携帯アプリ「個人コード」の提示が義務づけられた。このアプリには、個人の健康状態や移動歴が記録されており、浙江省杭州市で導入された後、中国全土に普及した。

デジタル技術は、人々の自粛生活も支えた。コロナ前からスマホ決済や宅配サービスなどを多くの市民が日常的に利用し、非接触生活様式の基盤が形成されていたことで、ニューノーマル(新常態)な生活への移行が容易だったとされている。新型コロナが流行する中、デジタル技術の利用は急激に進化し、教育や医療は次々にオンラインへと切り替えられた。

「新基建」を推進
ポストコロナの経済対策として、中国政府はハイテク分野に特化した新たなデジタルインフラ構築への超大型投資を表明した。2018年から実施されていた新型インフラ構想「新型基礎インフラ建設(新基建)」は、再度注目され、5月の全国人民代表大会(日本の国会に当たる)で推進強化が発表された。

新基建は新世代技術通信施設、既存インフラ施設のスマート化、科学技術イノベーション施設への投資に重点が置かれている。対象分野は、第5世代通信(5G)、AI、ビッグデータセンター、IoT(モノのインターネット)、超高圧送電システム(UHV)、高度道路交通システム(ITS)、電気自動車用充電スタンド整備の七つ。25年までに投資額は約10兆元(150兆円)が見込まれ、民間投資を含めると17兆元(255兆円)超に上るとの試算もある。

新基建の対象分野は15年に発表された中国の製造業の政策「中国製造2025」の重点分野と重なり、「世界の製造強国の仲間入り」という中国の国家戦略実現に向けても非常に重要な投資であることは間違いない。

※本記事は 日刊工業新聞2020年8月21日号に掲載されたものです。

吉田 裕美 CRDSフェロー(海外動向ユニット)

早稲田大学大学院人間科学研究科博士課程単位取得後満期退学。専門は移民研究及び社会言語学。岡山大学で講師、ユニセフ東京事務所、在ノルウェー日本国大使館、国連大学勤務を経て、20年から現職。

<日刊工業新聞 電子版>
科学技術の潮流(64)中国、デジタルインフラ構築(外部リンク)