第62回「独、グリーン水素で経済再生」
欧州議長国に
ドイツは7月1日に欧州理事会の議長国に就任した。欧州連合(EU)全加盟国が6カ月ごとに輪番制で担うポストだが、1月に英国がEUから離脱、2月以降の新型コロナパンデミックによる混乱という非常に困難な時期に欧州のかじ取りを担当することになった。
COVID-19の感染拡大によりEU経済は大きな打撃を受けている。国際通貨基金(IMF)は6月の世界経済見通しで、2020年のユーロ圏は10.2%のマイナス成長という予測を発表した。この数字は米国(マイナス8.0%)や日本(マイナス5.8%)と比べ極めて悪い。
人口当たりの新型コロナによる死亡者数が欧州域内では際立って少ないドイツもマイナス7.8%が予測され、EUが結成以来最大の危機に直面しているだけでなく、ドイツの経済や産業の再生も容易ではない。
環境技術を推進
一方、ドイツ政府はポストコロナ景気対策の一部として「未来パッケージ」と名付けた500億ユーロ(6兆円)規模の大規模な施策パッケージを6月に発表した。柱となるのは環境対策と人工知能や量子といった次世代技術分野への追加投資だ。注目は、EU目標である「2050年炭素中立化」実現に向けて、製造段階で二酸化炭素(CO2)を排出しない再生可能エネルギー由来の「グリーン」な水素を国内およびEU域内で製造、利用するという水素戦略である。
もともとドイツはEU加盟国の中でも環境先進国として知られており、00年代に入ってから脱化石、脱原子力を目指して再生可能エネルギーによる発電量拡大を段階的に達成してきた。これまでも風力、太陽光と並んで水素エネルギーの研究開発に多額の資金を投じてきたが、7年ぶりの新規国債発行で全額が賄われる今回の補正予算編成に当たり、一気にグリーン水素の実用化に向けた取り組みを加速する。
同時に欧州理事会議長国として「欧州グリーンディール政策」を率先して進め、拡大が期待される水素市場の標準化や規格化の道筋を立てることを狙っている。さらに今後エネルギー需要が確実に増加するアフリカ諸国などへの積極的な水素技術の輸出を展望しており、輸出大国ドイツの次の主要産業に化ける可能性もあるだろう。
※本記事は 日刊工業新聞2020年7月31日号に掲載されたものです。
00年ミュンヘン大学政治学部大学院修了(国際政治学専攻)。帰国後はIT系ベンチャー企業でウェブマーケティング事業の立ち上げに参加。13年より現職。
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