2020年7月24日

第61回「EU、コロナ後の競争力強化へ」

復興基金の新設
新型コロナウイルスが欧州連合(EU)に与えた影響は甚大であった。感染が拡大してきた3月半ば、EU加盟各国はいち早く国境を封鎖した。これは移動の自由や単一市場を掲げてきたEUの理念に逆行するものであった。また、人工呼吸器やマスクなどの医療品の確保をめぐっては、当初独・仏が輸出禁止や国家管理を表明し、医療崩壊の危機にあったイタリアに必要物資が十分行き渡らないという事態も生じた。経済支援策のあり方をめぐっても、加盟国間での対立が目立ち、EUの存在意義が改めて問われることとなった。

こうした危機感の下、5月半ばになって独・仏は欧州の経済復興を目的とする基金新設に合意し、5月27日に欧州委員会(EUの行政機関)は2021-27年の多年度財政枠組み(MFF)と「次世代のEU」と呼ばれる復興基金を核とする「欧州復興計画」を発表した。復興基金の規模は7500億ユーロで、MFFも合わせた7年間の予算総額は1兆8500億ユーロにのぼる。これにより、加盟国の投資・改革支援、経済再始動・民間投資支援、さらには今回の危機を教訓とした戦略的課題対応を進める計画である。

グリーンとDX
19年12月に委員長が交代し新体制となった欧州委員会では、重点政策として50年までにEUの温室効果ガス正味排出量ゼロを目指す「欧州グリーンディール」や、経済・社会のデジタルトランスフォーメーション(DX)を推し進める「デジタル戦略」を掲げていた。コロナ危機の後でもこれらの政策を重視する姿勢は変わらず、今回の予算でこうした戦略分野に優先投資を行い、復興後のEUの競争力強化を目指している。

この一環として、「復興・回復ファシリティー」に7年間で6725億ユーロを計上し、グリーン化やDXを中心とする加盟国の改革・投資を支援する。また、研究支援プログラムであるHorizon Europeに同809億ユーロを措置し、ヘルス、グリーン、デジタル分野の研究に重点投資を行う。

復興基金はEU史上初めて共同債券の発行によって資金を調達する。1月末に英国がEUから離脱し、他の加盟国の財政負担が増大する中、7月17日から会期を延長し5日間にもわたり行われたEU首脳会議で、予算案について全加盟国の合意に至った。

EUが今回のコロナ危機を契機に結束を強化し、今後国際社会での競争力を高めていくことができるのか、その真価が問われる。

※本記事は 日刊工業新聞2020年7月24日号に掲載されたものです。

山村 将博 CRDSフェロー(海外動向ユニット)

東京工業大学大学院社会理工学研究科修了。08年JST入構。国際事業担当、産学連携事業担当を経て、NPO法人STSフォーラムに出向し国際会議運営業務に従事。18年11月より現職。

<日刊工業新聞 電子版>
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