2020年7月10日

第59回「人工知能研究の最前線」

論文 米中が圧倒
今年2月にニューヨークで開催された第34回米国人工知能学会(AAAI)国際会議に参加した。人工知能(AI)分野を総合的に扱う世界トップクラスの国際会議の一つである。参加者は、2017年からヤク1800人、2500人、3000人と年々大幅に増大してきたが、新型コロナウイルスの影響により800人が参加できなかった今年は3200人にとどまった。

論文数は13年以降うなぎ上りで、特にこの数年間の論文投稿数の増加は著しい(図)。トップクラスの国際学会では査読と呼ばれる専門家による審査を通過しないと採択されない。国別の論文数の割合は中国と米国が圧倒的である。3年前までは米国が不動の1位だったものが今は完全に逆転している。少し離れて、英国、豪州、日本、韓国の3位グループが続くのが近年の人工知能分野の国際学会の一般的な傾向である。

人との共存問う
国際会議では基調講演や招待講演をみることで研究分野の進む方向をうかがい知ることができる。今回、AAAIのギル会長は「AIは将来学術論文を書くか」という基調講演で、科学という最も知的な領域での人工知能の可能性を論じた。

またノーベル経済学賞を受賞したカーネマン教授とチューリング賞の受賞者のヒントン教授らは、人工知能は人間のように感情的あるいは理性的に意思決定できるかをテーマに討議した。これらは人工知能の将来に向けた研究の方向性を示している。

3年前から本会議と同時期に「人工知能と倫理と社会に関する国際会議」(AIES)が開催されている。人工知能関連学会が理工系の研究発表が大勢であるのに対して、こちらは人文社会科学系の発表が半数以上を占める。研究テーマは、公平性、説明責任、倫理、働き方、政策、統制と多岐にわたる。

人工知能技術の社会への影響の広がりと強さを感じさせる中で、人間と人工知能が共存する社会を前提にして、人間に寄り添う人工知能の研究だけでなく、人工知能をよりよく使うための社会システムのあり方や人の働き方に関する研究が進んでいる。人工知能研究のもう一つの最前線はここにある。

なお、従来、欧米一辺倒であったものが今回初めて日本からの発表があった。日本でもこの分野の研究は急速に立ち上がってきている。今後は世界の舞台での活躍も十分期待できる。

※本記事は 日刊工業新聞2020年7月10日号に掲載されたものです。

茂木 強 CRDSフェロー(システム・情報科学技術ユニット)

京都大学理学部卒。三菱電機株式会社入社。計算機言語処理系などの開発を経て、情報技術総合研究所にて情報システム技術の研究開発や事業化に従事。米スタンフォード大学計算機科学科修士課程修了。13年より現職にて人工知能、ロボティクス、ブロックチェーンなどを担当。

<日刊工業新聞 電子版>
科学技術の潮流(59)人工知能研究の最前線(外部リンク)