2020年6月26日

第57回「センシングでIoT実現」

課題解決のカギ
二酸化炭素(CO2)排出量削減、省エネルギー化、社会インフラの効率的な保守、健康寿命の延伸など、我が国が抱える課題は数多い。その解決のカギとして期待される技術がIoT(モノのインターネット)である。

IoTではあらゆるモノからデータを集め、クラウドに送る。クラウドに蓄積したデータに高度な分析を施し、何かが起きる前兆などの重要な情報を導き出して、フィードバックを行う。

例えば、道路やトンネル、発電プラントなどの社会インフラにセンサーを設置し、得られたさまざまなデータから異常の兆候を見いだすことで、人手による定期点検に頼らずに、必要なときに必要な保守が実施できる。また、ウエアラブルセンサーで得られるさまざまなバイタルデータを基に、未病の検知が可能になる。

IoTの実現には、データを正確に取得するセンサーと、データを処理してクラウドに送信する機器(エッジ側情報処理機器)からなるセンシングシステムが極めて重要になってくる。従来のセンシングシステムは、限られた範囲内で特定の用途に使用されるものが多く、センサーの数も、扱うことのできるデータの種類・量も限られていた。

異分野と連携
一方、IoTでは、あらゆる場所に設置したさまざまなセンサーをネットワークにつなぎ、環境の情報、装置の稼働情報、人の健康情報など多岐にわたる膨大なデータを自動的に収集する必要が生じる。

また、ネットワークの負荷低減やリアルタイム性の確保、プライバシー保護などの観点から、従来クラウドが担っていたデータ処理の一部を、クラウドに送らずにエッジ側で行うことが求められている。このようなセンシングシステムを実現するには、センサーの高性能化に向けた材料・デバイスの研究開発に加え、センサーと電源、通信などの機能を集積して端末化する技術、システムの最適設計など、異なる技術分野の連携による研究開発が必要になる。

今、クラウドなどIoTの上層側はGAFAなどのプラットフォーマー企業が市場を席巻しているが、今後は価値が下層側のセンシングシステムに移ってくる。日本はセンサーに強く、世界シェア50%以上を有するイメージセンサーを筆頭に、日系企業のセンサー領域の世界シェアは3割を超える。高い技術力を基に、日本発の優れたセンシングシステムの実現が期待される。

※本記事は 日刊工業新聞2020年6月26日号に掲載されたものです。

荒岡 礼 CRDSフェロー(ナノテクノロジー・材料ユニット)

東京工業大学大学院理工学研究科博士課程修了。JST戦略的創造研究推進事業でナノテクノロジー・材料分野の研究推進業務を担当した後、現職。博士(工学)。

<日刊工業新聞 電子版>
科学技術の潮流(57)センシングでIoT実現(外部リンク)