2020年6月12日

第55回「マイクロプラスチック 環境リスク評価を」

価値再認識
新型コロナウイルスとの戦いの中で、プラスチックの価値が再認識されている。衛生上の懸念から使い捨て可能なプラスチック製品の需要が伸びているとのことである。プラスチックは軽量、安価、高機能といった特徴を持ち、人類に多大な社会的、経済的便益をもたらしてきた。今回の事態は図らずもその一端を改めて認識する機会にもなっているようだ。

一方、プラスチックゴミ問題が国際社会の懸念事項の一つになっている。サイズの大きなプラスチックゴミに加え、「マイクロプラスチック(MP)」(5ミリメートル以下のサイズのプラスチック片)が環境中に拡散・蓄積し、生態系や人の健康に悪影響を及ぼす可能性が指摘されている。

これを受けて欧州連合(EU)では、製品中に意図的に配合されるプラスチックマイクロビーズなどの使用を包括的に制限するための検討が進められている。しかしこれらは環境中で微細化されてできるMPと比べると量的には少ない。またEUの進め方には、MPが実際にどのような影響をどの程度もたらしうるのか、という「環境リスク」の科学的解明が不十分との指摘もある。

EU規制 障壁に
そこでSETAC(国際環境毒性学会)とICCA(国際化学工業協会協議会)が連携してMPの環境リスクを評価するための基本枠組みの議論を始めた。このように産業界と学界が積極的に取り組む背景には、科学的検討の必要性に加えて、EUの規制が一種の産業障壁となることへの懸念もあると考えられる。枠組みの検討とそれに基づく実際の評価は今後10年間で大きく進展すると予想される。

こうした動きは社会的、経済的に多方面で影響を及ぼす可能性がある。従って日本も国として積極的に関与していく必要があるが、現在わが国では「プラスチック資源循環戦略」の下、リサイクルや新素材に関わる研究開発が活発化している。海洋プラスチックゴミの分布動態の調査・研究も進む。

しかしこれらと比べてMPの環境リスク評価研究は部分的・草の根的で、より体系的・戦略的に進める必要がある。

環境リスクの解明は新素材開発などにも有用な知見をもたらすと期待でき、今後はこれらの研究開発の一体的推進が求められる。環境リスク評価に基づく適正な管理ができれば、プラスチックゴミ問題への対応はより効果が高まり、産業競争力強化や国際社会への貢献も期待できる。

※本記事は 日刊工業新聞2020年6月12日号に掲載されたものです。

中村 亮二 CRDSフェロー(環境・エネルギーユニット)

首都大学東京大学院博士後期課程修了、博士(理学)。環境・エネルギー分野を幅広に担当。最近では「戦略プロポーザル 環境調和型プラスチック戦略」(2020年3月)を作成。

<日刊工業新聞 電子版>
科学技術の潮流(55)マイクロプラスチック、環境リスク評価を(外部リンク)