2020年4月3日

第49回「研究力発揮へシステム改革」

変化追いつけず
日本の研究力の低下が懸念されている。生命科学の分野に限って言えば、研究の手法そのものが世界的に大きく変化しつつある中、日本では教育・研究の体制や研究者マインドが追いついていないことが要因の一つと考えられる。

この変化とは、科学研究におけるデータ駆動型、デジタル化、それに伴うビッグサイエンス化と異分野連携の必要性の急速な高まりである。近年の新しい技術の多くは化学、数理・情報、工学などとの連携から生まれ、1本の論文に名を連ねる共著者数は増加傾向である。日本ではなぜこうした変化を欧米並みに研究に反映、実装させられないのだろうか。

我々は、研究力を発揮する研究システムのあり方を探るべく、米・英・独の大学、公的研究機関に籍を置く50人ほどの日本人研究者にインタビューし、研究現場をつぶさに調査した。こうした変化の潮流をリードする米・英・独には共通する研究システムがある。

欧米との違い
日本の研究システムとの大きな違いは三つ、若手人材開発、グローバルな教育研究環境、研究インフラ・プラットフォームに対する考え方である。

一つ目は、若手研究人材が活躍できる研究システムの構築で、博士課程学生への給与や生活費の支給、ポスドク期間の後に厳しい選抜を経て独立研究者となるPI(研究室主宰者)制、さらに新任PIへのスタートアップ研究費の充実である。

二つ目は、海外研究者を呼び込む魅力的な研究システムの構築。世界では優秀な若手人材の獲得競争が激しい。研究費申請の評価や、研究機関の評価システムの国際化が課題となる。

三つ目は、先端的な研究機器や技術を共通に整備したコアファシリティーと、それらに携わる専門性を備えた高度研究支援人材の存在である。これにより若手PIや異動した研究者がすぐに研究に着手できる。複雑化・高度化する先端機器は3年程度で次世代機へと進歩する。研究室ごとに先端機器を所有する研究スタイルが残る日本の現場は、非効率で持続可能でない。

これら三つは、適正な評価と競争原理を機能させ、人材の流動性を生み、異分野連携を促進するなど、変化への柔軟な対応を可能にする。また、研究者が研究に専念する時間や、研究者数の増加とも連関する(表)。

日本が今後研究力を発揮していくには、国際標準と乖離した研究システムを改めて見直し、豊かな研究の土壌を育む必要がある。

※本記事は 日刊工業新聞2020年4月3日号に掲載されたものです。

島津 博基 CRDSフェロー/ユニットリーダー(ライフサイエンス・臨床医学ユニット)

大阪大学大学院理学研究科修了。JSTでは産学連携事業担当を経て、情報、ナノテク・材料分野などで分野の俯瞰や研究戦略立案を担当。マテリアルズ・インフォマティクスの提言などを執筆。弁理士試験合格。

<日刊工業新聞 電子版>
科学技術の潮流(49)研究力発揮へシステム改革(外部リンク)