2020年3月27日

第48回「立法府とアカデミア 日頃の情報交流 必要」

不健全な状況
立法府は常に何かのトピックで忙しいが、科学技術と立法府は疎遠である。しかし議院内閣制のもと、国会議員が行政府に大臣などとして入り、政策を実施する責任者となるシステムを取る中で、立法府と学界全体(アカデミア)の間で日頃の情報交流が不足していることは健全ではない。

立法府とアカデミアの関係が世界ではどうなっているのかと調べると、いろいろな事例があるが、大きく分けると立法府が積極的な場合と、アカデミアが積極的な場合の二つの類型がある。

前者としてはドイツの連邦議会技術評価局のように、科学技術が関わることになる政策の立案に不可欠な情報の収集、分析、取りまとめを行う組織を議会が設けている事例が多い。後者ではスウェーデン王立工学アカデミーのように議員との交流を日頃から積極的に行い、年に1回行う懇親会には120人程度の議員が参加し、これがスウェーデンの国会議員が議事堂以外で集まる最大の集会だといわれているような事例がある。

国会議員と科学者を1対1で結び付ける活動も行われている。英国王立協会や欧州連合は両者のペアを形成し、相互に学び合うペアリング・スキームという仕組みを設けている。米国では米国科学振興協会が音頭を取って博士研究者を議会に派遣する議会科学技術フェローシップ制度を運用している。

迫られる対応
日本では、立法府と組織全体としてのアカデミアのつきあいはない。日本学術会議は設置法で行政府に対する提言を行うことが任務とされているし、英語で日本アカデミーと表記される日本学士院は、栄誉授与機関であって、日常的な意見具申などは行わない。著名な専門家などが国会や政党の会議に招かれ意見交換することはあっても、専門家を束ねる中立的な組織と立法府との間に接点がない。

このため立法府に多様な意見が入りにくくなっている。議院内閣制を取っているので行政府から十分な情報が入ってくるという考え方もあるが、行政府からの情報は行政府に都合の良いものになりがちである。このようにみてくると、立法府とアカデミアとの間のミッシングリンクを解消するため、わが国の社会文化的な状況を踏まえた上で適切な方法を編み出す必要に迫られている。

※本記事は 日刊工業新聞2020年3月27日号に掲載されたものです。

永野 博 CRDS特任フェロー(海外動向ユニット)

慶応義塾大学工学部、法学部を卒業。文部科学省国際統括官、科学技術振興機構理事、OECDグローバルサイエンスフォーラム議長に就き、現在、慶大訪問教授、AAASフェロー、日本工学アカデミー専務理事。著書に「世界が競う次世代リーダーの養成」、「ドイツに学ぶ科学技術政策」。

<日刊工業新聞 電子版>
科学技術の潮流(48)立法府とアカデミア、日頃の情報交流必要(外部リンク)