2020年3月13日

第46回「感染症対策 体制構築と新技術」

脆弱さ露呈
新型コロナウイルスは、いまや世界の市民生活や経済を揺るがす問題だ。わが国も関係者が日夜懸命の対応をとるなか、早期の沈静化を願ってやまない。

わが国の感染症対策の脆弱さが、新型コロナウイルスへの対応で露呈した。国境を越えた人の往来が加速する中、将来、また新たな感染症が持ち込まれる可能性は高い。わが国にも米国疾病管理予防センター(CDC)のような、国民を感染症の脅威から守ることをミッションとする専門組織の構築が重要だ。

CDCに助言を行うワクチン諮問委員会(ACIP)では、多様な専門家集団が科学的根拠に基づいて議論を尽くし、ワクチン推奨の有無に大きな影響力を持つ。ワクチンは、長期的な疾病予防効果よりも短期的に発生する副作用に注目が集まりやすく、科学的根拠に基づく議論が重要だ。

わが国は専門家集団や行政、患者団体、マスメディアの間で科学的根拠に基づいた議論を実施し意思決定を行う仕組みが未成熟で、諸外国と比して任意接種扱いのワクチンが多く、ワクチン後進国とも国際的に認識されている。わが国にもACIPのような仕組みが必要だ。また、科学者コミュニティーによる適切な情報発信も重要だ。

治療法開発
新型コロナウイルスのような、未知の感染症に対する迅速な診断・治療法開発は重要だ。平時より、主要なウイルスのタイプごとに基礎的理解と制御法探索を続けることで、有事における迅速な治療法開発が可能となる。

一方、既知の感染症として多剤耐性菌が深刻さを増している。2050年には年間死亡数が1000万人を超えるとの予測もある。背景には抗生物質の乱用と、新規抗生物質開発の鈍化がある。今、抗生物質とは根本的に異なる治療法開発も始まっている。

健常者の便を患者へ移植する便移植治療で、多剤耐性菌感染症患者の劇的な治療効果が実証された。現在、便移植治療を洗練させた、日本発の微生物カクテル治療の臨床試験が世界の注目を集めている。細菌特異的に感染し破壊するバクテリオファージを活用し、多剤耐性菌の治療を目指すファージ治療において、高い治療効果を示す症例が複数登場し、今後の研究開発の加速が期待される。

感染症対策は組織体制と研究開発の両輪が重要である。当面は新型コロナウイルスの収束を最優先としつつ、感染症に関する諸問題について議論をはじめ、わが国の感染症対策を強化すべきである。

※本記事は 日刊工業新聞2020年3月13日号に掲載されたものです。

辻 真博 CRDSフェロー(ライフサイエンス・臨床医学ユニット)

東京大学農学部卒。ライフサイエンスおよびメディカル関連の基礎研究(生命科学、生命工学、疾患科学)、医薬品開発、医療ビッグデータ、研究環境整備などさまざまなテーマを対象に調査・提言を実施。

<日刊工業新聞 電子版>
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