2020年3月6日

第45回「材料・デバイス技術 存在感発揮が重要」

日本の将来左右
日本の輸出は素材、部品、車やロボットなどの製品によって大部分が占められている。これらを支えてきたのが物理、化学、材料科学をベースとする材料・デバイス技術である。多くのノーベル物理学/化学賞の受賞に垣間見られるように、日本のこの分野における科学技術のレベルは高く、それが産業を支えてきた。

ところがここに来て、以下の三つの大きな環境変化が起こりつつあり、これにどう先行的に対応できるかが日本の将来を左右する。

3つの環境変化
①IoT(モノのインターネット)、ビッグデータ(大量データ)、さらには人工知能(AI)に代表されるデジタル化の波が、コンピューターの世界を超え、我々の身の回りに押し寄せている。医療や輸送の場面、生活の場である家庭・オフィス、製造現場の工場などが大きく変わろうとしている。デジタル化による大きな社会変革のうねりは、それを実行する多くの優れた機器があって初めて具現化される。機器を構成する材料、デバイスが生み出す新たな機能、優れた性能がカギとなる由縁である。例として、将来の自動車を支える材料・デバイス技術群を図に示す。

②材料への要請は多様かつ高度になっており、これを満足するために、多くの元素を組み合わせる、機能の異なる材料系を階層的に組み合わせるなど、先端材料は多元素化、複合化の方向に進んでいる。希少な元素を用いず、自然界に豊富に存在する複数の元素の組み合わせで従来以上の機能を産み出そうとの試みもその一環である。もはやコンピューターに頼らずに新たな材料開発を行うことは難しくなっており、巨大な材料データベースを駆使しての新材料探索、大規模シミュレーションによる材料特性の予想などが日常化しつつある。次のステップとして複雑な材料の合成設計手法の確立が期待されており、データ科学、シミュレーション、さらには微視的な化学反応の実時間計測技術を駆使した製造プロセスの革新が焦点となりつつある。

③近年の中国の科学技術分野での躍進はめざましく、米中の技術覇権争いが激化し、世界が二つの経済圏に分離する可能性すら議論されている。半導体、電子部品、材料などの先端技術の中心が日本を含む東アジア各国に移りつつある今、日本がこれらの分野であなどれない存在感を発揮することは国益上も極めて重要である。

※本記事は 日刊工業新聞2020年3月6日号に掲載されたものです。

曽根 順一 CRDS上席フェロー

東京大学大学院理学系研究科物理学専攻修士課程修了後、NEC入社。中央研究所にて半導体素子、超伝導素子の研究に従事。同社基礎研究所長、支配人、物質・材料研究機構理事を経て、2015年より現職。この間、ナノ学会会長などを歴任。応用物理学会フェロー、理学博士。

<日刊工業新聞 電子版>
科学技術の潮流(45)材料・デバイス技術、存在感発揮が重要(外部リンク)