2020年2月21日

第43回「米、政府主導で研究環境改善」

4つの検討課題
米国では科学技術を一元的に所管する省庁はなく、各連邦政府機関がそれぞれのミッションに応じて多様な研究開発や研究資金配分を推進している。連邦政府全体としての調整を担っているのが大統領府に置かれている科学技術政策局(OSTP)である。

OSTP局長はトランプ政権発足後長く空席であったが、2019年2月に元オクラホマ大学副学長のケルビン・ドログマイヤー氏が就任した。同氏が直ちに優先課題として着手したのが米国の研究環境を取り巻く諸問題の改善である。

具体的には、大統領府と各連邦機関の幹部が政策調整を行う国家科学技術会議(NSTC)内に「研究環境に関する合同委員会(JCORE)」を設置し、四つのテーマを設定して議論を進めている。それぞれ次のような背景・課題がある。

①研究者の事務負担の軽減。米国の研究者の活動時間のうち4割以上が研究以外に費やされるなど、事務負担が効率的・独創的な研究活動を阻害している状況があり、研究者が研究に集中できる環境を整備する必要がある。

②安全かつ包摂的な研究環境。ジェンダーや人種に関連したハラスメントの根絶のためには、規制だけでなく研究コミュニティーの文化も含めた検証と対応が必要であり、政府と科学界が協力して取り組むことが求められている。

③研究の厳密性と公正性。研究の再現性を確保することは政府の研究開発投資の効果を最大化する観点からも重要であり、連邦機関共通の基本方針を整備しつつ、現場の実情に即した事例共有も進める必要がある。

④研究の安全保障。知的財産の窃盗から、米国に拠点を置く研究者への資金提供の隠匿まで、米国の研究成果への不適切なアクセスが外国政府により行われているとの懸念が高まっており、対応が急務となっている。

価値観を調和
これらの多くは我が国にも共通する課題である。①から③に関しては総論として賛同の得やすいテーマと考えられるが、④のような問題に関しては、開かれた研究環境と安全保障の確保といういずれも米国にとって重要な価値観を調和させる必要があり、政府、議会、科学界にわたる重大な関心事となっている。我が国への影響も含め、どのような検討や対応がなされるか、引き続き注目される。

※本記事は 日刊工業新聞2020年2月21日号に掲載されたものです。

長谷川 貴之 CRDSフェロー(海外動向ユニット)

JST入職後、地域産学官連携、文献データベース提供、国際共同研究推進、国際戦略策定などに従事。日本学術振興会にて世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)、科学研究費補助金、研究倫理関係業務を担当後、18年より現職。主に米国の科学技術政策動向調査を担当。

<日刊工業新聞 電子版>
科学技術の潮流(43)米、政府主導で研究環境改善(外部リンク)