2020年1月24日

第39回「フランスAI戦略 産業・社会 広く変革」

イノベ支援
フランスのマクロン大統領は2018年3月、就任後初の研究に関する本格的な政策である人工知能(AI)に関する国家戦略を公表した。AI研究計画全体に15億ユーロを充てる戦略の基軸は国内外の研究ネットワーク構築、人材育成強化、オープンデータ、公的資金投資、倫理・政策面での取り組みで、産業・社会の多方面でAIを起爆剤としたフランスの成長を目指した戦略だ。

フランスの主軸産業といえば、航空機・自動車業界が浮かぶ。これらの業界で今後AIを実装する上で、システム全体の信頼性確保に回路基板などの製造技術把握や信頼性確保が欠かせないという。

裾野への支援施策は別途進んでおり、電子材料・デバイス業界は19年3月、政府と「ナノ2022計画」を発表した。フランス国内では10億ユーロを、欧州では独伊英と合わせ4カ国で17億5000万ユーロをそれぞれ公共助成し、電子材料の研究とイノベーションを支援する。対象は自動車、第5世代通信(5G)、AI、IoT(モノのインターネット)、航空宇宙・安全保障の領域に関わる次世代のデバイス製造技術である。

オープンデータ
加えて筆者が注目したのは、医療データなどを含むオープンデータへの取り組みだ。フランスの情報処理及び自由に関する国家委員会(CNIL)の提案がほぼ100%採用された、欧州連合(EU)一般データ保護規則(GDPR)の制定は記憶に新しい。

そのフランスでネットワーク構築と人材支援の中核となるAIの拠点形成プログラム「3IA」でも、採択された4拠点全てが保健(ライフ・医療関連)研究に力を入れる。ライフ・医療分野で人工知能というと画像診断などが浮かぶが、フランスが注目するのは国民一人ひとりの疾病履歴の蓄積だ。

フランスはその社会制度が中央集権的な側面があり、国民の医療データが国の主導のもとに一元化されており、研究に利用されうる。そのデータの価値が評価される一方、国の積極的なイニシアティブがなければ国民の医療データが海外のIoT先進企業の収益源になってしまう可能性もはらみ、国民の利益に資する運用が問われている。

フランスの抱えるリスクは基本的には我が国と同様と考えられる。製造業も個人情報を扱う業界も、その施策を引き続き注視していく価値があるだろう。

※本記事は 日刊工業新聞2020年1月24日号に掲載されたものです。

八木岡 しおり CRDSフェロー(海外動向ユニット)

明治学院大学文学部フランス文学科卒。日本アルカテル・ルーセント株式会社真空機器事業部で真空ポンプの国内製造業・分析機器業界向け販売に従事。在日フランス商工会議所勤務などを経て17年より現職。

<日刊工業新聞 電子版>
科学技術の潮流(39)フランスAI戦略、産業・社会を広く変革(外部リンク)