2020年1月10日

第37回「科技政策 社会課題解決へ範囲拡大」

積極的に関与
いわゆる基礎研究に加え、10月11日付の当連載で触れたソサエティー5.0や、持続可能な開発目標(SDGs)にみられるような社会課題解決型の科学技術の取り組みが増す傾向にある。従来は「科学技術振興のための政策」、つまり科学技術を振興するための予算や制度などの施策が中心であった。

それに加え、「政策課題解決のための科学技術」、すなわちさまざまな社会的課題を解決しようとする政策に対して、科学技術が積極的に関与していく取り組みを重視するようになったことが背景にある。公募研究プログラムにおいて、社会課題を対象とするテーマ設定に基づくものも増えてきている。

社会的課題に対する取り組みは、イノベーションの観点や課題解決への科学技術への期待などから、日米欧などの諸国で重要と認識されている。日本では科学技術基本計画に、欧州ではHorizon 2020にそれぞれ記載されている。

こうした潮流はわが国の戦略と推進体制の変化にも表れる。科学技術基本計画は5年ごとに総合科学技術・イノベーション会議(CSTI)で策定されるが、2018年と19年には政府として新たに「統合イノベーション戦略」が策定されるようになった。これは「成長戦略実行計画」(日本経済再生本部)などで示された方針を受け、科学技術によってどう実現するかを示したものといえる。

体制的には、CSTIほか科学技術系の国家戦略を考える本部組織を連携させる形で統合イノベーション会議が設置された。これらは、戦略のスコープが “科学技術の振興”に加えて“イノベーションによる国力強化”に大きく拡大し、科学技術を通じイノベーションの実現に貢献する、という位置付けになったことを示す。

協働で価値創造
科学技術政策は、新しい知識の生産という従来の領域に加え、社会課題解決のための知識活用という新たな領域へ守備範囲を拡大しつつある。経済産業、国土計画、交通運輸、健康、環境、農業などの政策とも重なることから、各分野との協働による価値創造がますます重要になっている。分野協働は難しいチャレンジだが、それを乗り越えた先に我々の未来が待っている。ただし、従来政策への配慮を忘れてはならない。

※本記事は 日刊工業新聞2020年1月10日号に掲載されたものです。

日江井 純一郎 CRDSフェロー(科学技術イノベーション政策ユニット)

東京理科大学大学院理学研究科修士課程修了。新技術開発事業団(現JST)入団。産学連携事業、基礎研究事業などにおいて企画立案、事業推進に従事。日本医療研究開発機構(AMED)への出向を経て、18年より現職。

<日刊工業新聞 電子版>
科学技術の潮流(37)科技政策、社会課題解決へ範囲拡大(外部リンク)