第35回「ブロックチェーン 議論・実証で真価問う」
出藍の誉れ
仮想通貨ビットコインは、ブロックチェーンと呼ぶ画期的IT技術に支えられている。通貨と言っても1ビットコイン貨幣や紙幣があるわけではない。インターネット上に「誰が誰にいくら送金」という取引記録が蓄積されるのに過ぎない。
ただし、通常のインターネット上の記録であれば複製・書き換え・削除は簡単だが、ひとたびブロックチェーン上に書き込まれるとこれらが一切できなくなる。高度な暗号技術と通信技術に守られているからであり、仮想通貨のことを暗号資産と呼ぶのはこのためだ。
ビットコインの最大の功績は、中央銀行のような特定の意思決定機関を持たずに通貨取引が運営できる仕組みを構築し、2009年から現在まで10年にわたって維持可能であることを世の中に向けて実証したことである。
ブロックチェーンはビットコインから生まれたが、今やブロックチェーンは “出藍の誉れ”よろしく、逆にさまざまな応用と期待を生み出している(図)。食品の追跡、電力取引、サプライチェーンや貿易、電子投票、公文書や健康医療情報の保管からエストニアのような電子政府といった領域まで、その例は広がる。
一方で、現実的な課題も明らかになった。処理性能やプライバシー、将来にわたるセキュリティーなどの技術的な課題に加え、保守や信頼性の問題、既存の商習慣や法規制との相性などの法制度的な課題が山積している。
価値交換の基盤
インターネットは、社会や人々の生き方を大きく変えた。世界中の計算機や機器をつなげることで、誰もが簡単に情報を発信・検索・活用できる「情報伝達のプラットフォーム」となった。一方で、ブロックチェーンは、データの真正性を保証して価値の共有と交換が簡単にできる基盤を提供することで、誰もがそこにある情報を信用できる、いわば「信頼のプラットフォーム」となる可能性がある。
しかしそこに至るには、ブロックチェーンの真価を生かす社会システムのあり方に関する議論と、それを実現するための人文・社会学を含めた広範な分野における研究開発、実証実験が必要である。インターネットの黎明期を世界中で育てたような、長期的視野に立ったグローバルな活動が望まれる。幸いまだGAFAのような覇者はいない。わが国が国を挙げて取り組む意義も勝機もそこにある。
※本記事は 日刊工業新聞2019年12月13日号に掲載されたものです。
京都大学理学部卒。三菱電機入社。計算機言語処理系などの開発を経て、情報技術総合研究所にて情報システム技術の研究開発や事業化に従事。米スタンフォード大学計算機科学科修士課程修了。13年より現職。
<日刊工業新聞 電子版>
科学技術の潮流(35)ブロックチェーン、議論・実証で真価問う(外部リンク)