2019年12月6日

第34回「科技イノベ 社会の受容性高めるには」

協働プロセス
科学技術イノベーションは、経済社会への浸透の範囲とスピードを拡大し、それに伴い便益のみならずリスクや懸念が以前にも増して顕在化する。例えば人工知能(AI)やロボット化の進展と雇用の関係、自動運転の事故時の法的整備など、社会が新興技術をどう受け入れるかが議論されている。科学技術イノベーションの社会的含意について、正負両面から理解した上で、社会全体でいかに受容性を高められるかが課題となっている。

では何が必要か。8月30日付の当連載で、RRI(責任ある研究・イノベーション)という概念が欧州で提唱されていることに触れた。これは、科学技術イノベーションの上流から下流に至るフローを通して、社会を構成するアクター(研究者、市民、政策担当者、企業、NGOなど)が協働するプロセスを構築することで、科学技術の成果を価値、社会ニーズ、社会の期待につなげる必要がある、という考えである。

この概念は我が国の第5期科学技術基本計画にも導入され、「共創的科学技術イノベーション」として提言されている。

認識ギャップ
では、RRIが提唱する協働プロセスは科学技術の現場で浸透しているのか。市民と研究機関の認識ギャップについての調査結果を紹介しよう(図)。「自らの研究組織の研究の方向性の決定に対して、一般市民がより積極的に関与することを期待している」に同意した大学研究組織は全体のうち2割弱であり、約半数は「わからない」「どちらともいえない」と回答した。一方、「科学技術政策の検討には、一般の国民の関わりが必要」と答えた市民は8割弱であった。

調査結果は、科学研究の多くの現場において協働プロセスの必要性が理解され、浸透しているという状況からは程遠いことを示唆している。

絶えず競争にさらされる中、研究力の低下や人材不足など、日本の科学技術の現場は厳しい。そのような中、協働プロセスの恩恵が理解され、現場が変わっていくためのハードルは高く見える。社会の要請を受けて、「持続可能性」「多様性」「包摂性」を重視し「社会的責任」を果たすべき、という考えは企業経営においても昨今急速に浸透し実践されてきている。果たして科学技術は社会の大きな流れをどのようにくみ取り、対応していくのか。その在り方が今、問われている。

※本記事は 日刊工業新聞2019年12月6日号に掲載されたものです。

岡村 麻子 CRDS特任フェロー(科学技術イノベーション政策ユニット)

慶応義塾大学大学院商学研究科後期博士課程単位取得退学。科学技術振興機構(JST)研究開発戦略センターフェロー、経済協力開発機構(OECD)科学技術イノベーション局分析官を経て現在、政策研究大学院大学SciREXセンター専門職。

<日刊工業新聞 電子版>
科学技術の潮流(34)科技イノベ、社会の受容性高めるには(外部リンク)