2019年11月8日

第30回「選ばれる大学へ "研究のブランド化"進む」

URA導入
生き残りを賭けた競争が進む時代にあって、世界中の大学が社会から選ばれるため、大学を特徴づける研究のブランド化を進める。世界大学ランキングなどの競争を意識する(垂直的差別化)とともに、他にはない個性をつくろう(水平的差別化)と改革を強める。そのやり方は多様で、小規模でも産学連携で多くの成果を上げる大学もあれば、近畿大学のマグロ完全養殖の成功のように、研究の成果を押し出す大学もある。大学のブランド力が持つ影響は大きく、生徒・学生の大学選択、若手研究者の所属選択、企業などの連携選択にも及ぶ。

この外部から変革を迫られる状況で、同時に学内からは研究環境の改善を強く求められ、大学の学長はより高度で複雑な研究経営を迫られるようになった。既存体制で賄えない新たな大学機能について、日本は2011年頃からリサーチ・アドミニストレーター(URA)の仕組みを導入。今では全国で1000人近くのURAが各大学の研究力強化に取り組む。研究者や企業からの転身者、女性が多く、今も多くの大学が優れた人材を探している。

提案が重要
研究力強化のため、URAはどのような仕事に取り組むべきか。多くの大学ではURAは少数で、先輩からの指導もマニュアルもない。個々の経験やセンスに依存するのみだ。とはいえ、ただ座っていても良いアイデアは浮かばない。おのずとURAは組織を超えて人的ネットワークを形成し、そこから仕事のヒントを得てきた。

国の政策立案者、ファンディング・エージェンシー(FA=資金配分機関のこと)、企業の企画担当者などとのつながりも広げている。現在は「リサーチ・アドミニストレーター協議会」もでき、年次大会は600人超のURAが集まり、仕事のグッドプラクティスの共有やFAとの対話など多くのセッションを催す。

それでも海外に目を向ければ、米国ではFAとURAが競争的資金制度の改善を協議し、欧州ではURAが科学技術政策の提言を堂々と行っている。日本のURAも見習うべき仕組みである。そして個々のURAは、小さくまとまらずによりハイリスク・ハイリターンな取り組みを提案することが極めて重要だ。ひいては自分の大学の差別化にまでつながるような取り組みに期待したい。

※本記事は 日刊工業新聞2019年11月8日号に掲載されたものです。

丸山 浩平 CRDS特任フェロー(科学技術イノベーション政策ユニット)

東京農工大学大学院工学研究科修了。機械メーカーで研究開発、技術企画などに従事した後、大学に移りバイオセンシング研究を経験。09年からは一貫して大学の研究力強化など研究マネジメント業務に従事。現在、早稲田大学リサーチイノベーションセンター教授。博士(工学)。

<日刊工業新聞 電子版>
科学技術の潮流(30)選ばれる大学へ “研究のブランド化”進む(外部リンク)