第26回「社会システム学 ソサエティー5.0実現」
生活の質高める
ソサエティー5.0は、2016年に閣議決定された第5期科学技術基本計画に盛り込まれた「超スマート社会」を指す。モノのインターネット(IoT)や人工知能(AI)といった最新の情報技術を使い、サイバー空間とフィジカル空間を高度に融合させることで、経済発展と社会問題の解決を両立し、誰もが快適で活力に満ちた質の高い生活を送れるようになることを目指している。
ソサエティー5.0において、交通やサービスといった社会システムのデザイン要件は変化する。これまでは必要な機能やコストの最適化が図られてきたが、これに加えて、誰もが質の高い生活を送るための最適化が必要になる。
そのためには図に示すような、複雑な社会システム全体の設計思想を研究する社会システムアーキテクチャー、「社会とは何か」「公平性とは何か」について理解を深める公共哲学、インセンティブを引き出すための制度設計に関する方法論、などが総合的に求められる。これら社会システムの設計・構築・運用に必要な研究開発の体系を、総称して「社会システム学」と呼んでいる。
仮説欠かせず
社会システム学に関係するいずれの研究開発でも、情報科学と社会科学との深い連携が必要である。その一例として、計算社会科学と呼ばれる研究領域がある。
IoT技術やモバイル技術の進展により、社会のさまざまな様相をビッグデータ(大量データ)として集めることが可能になってきた。そのため、ビッグデータさえあれば社会を理解して設計できる、と考えがちである。しかし、データの意味を理解するには社会科学的仮説が欠かせない。
ビッグデータ解析を通じて社会を理解する研究は以前から存在したが、09年から計算社会科学の名で広く認識されるようになった。海外では社会科学と情報科学の融合領域として、多くの研究センターや教育プログラムが展開されている。日本でも16年に計算社会科学研究会が発足し、ワークショップなどを開催している。
ソサエティー5.0では、計算社会科学のような社会システム学が果たす役割は大きい。社会科学とシステム情報科学が密接に連携した研究の成果を基に、さまざまな社会システムが設計・構築・運用され、誰もが快適で活力に満ちた質の高い生活を送っていることを期待したい。
※本記事は 日刊工業新聞2019年10月11日号に掲載されたものです。
<執筆者>
青木 孝 CRDSフェロー/ユニットリーダー(システム・情報科学技術ユニット)
東京大学大学院情報工学専攻修士課程修了。富士通研究所でロボットのソフトウエアやハードウエアの研究・開発に従事後、スーパーコンピューター「京」の開発や研究所技術の事業化を担当。18年より現職。
<日刊工業新聞 電子版>
科学技術の潮流(26)社会システム学 ソサエティー5.0実現(外部リンク)