第24回「ナノスケールで熱伝導制御」
新技術の道開く
省エネルギーの観点から、効果的な放熱・断熱・蓄熱など熱の流れの制御や、熱から電気エネルギーへの変換技術などがますます重要になってきている。熱いコーヒーが時間とともに冷めていくのは日頃から経験しているが、熱はカップや空気を伝って高温側から低温側に流れ、元からあった熱エネルギーは無駄に消えていく、という程度の理解に留まっていると、半導体集積回路や電力制御用パワー半導体からの熱発生を抑えたり、発生した熱を速やかに放熱したり、廃熱から熱エネルギーを効率的に回収したり、といった課題には対応できない。
そこで、従来のような連続的な流れとして熱を捉えるマクロレベルでの取り扱いに加え、図に示すように、長さや時間がナノメートル、ナノ秒といったナノスケールでの熱伝導を「フォノン(音子)」という量子(準粒子)として厳密に取り扱う必要が出てくる。フォノンとしての熱制御が新技術の道を開くのである。例えば熱制御デバイス実現に向けての現状で越えるべきハードルとしては、熱伝導メカニズムの根本的な理解や、熱伝導の精密な測定技術の開発、ナノ構造・不純物などによる熱伝導の抑制技術の開発などが挙げられる。
分野超えた連携
ナノスケールでの熱伝導(フォノン伝導)の理解と制御には、機械工学、電子工学、材料工学、物理学、光学、化学など学術分野を超えた研究者の連携が必要である。このため2015年ごろから応用物理学会、日本伝熱学会、日本熱物性学会、化学工学会、ナノ学会、日本熱電学会などが連携シンポジウムを開催してきたように、学会間で連携を強化しつつある。
さらに応用物理学会では、春と秋の学術講演会に新たな合同セッションが設けられ、新たな研究領域「フォノンエンジニアリング研究グループ」が設立された。大学・国立研究所・企業から幅広い分野の研究者・技術者が集まって、異分野の交流や連携を深めている。
ナノスケールの熱の理解と制御に関する新たな研究開発への関心が高まっている状況は、企業経営者にとっても挑戦の好機ではないだろうか。企業における熱の問題・課題をアカデミアと共有した一体的な取り組み、熱スイッチや熱ダイオードのように電気と同様に熱を自由に操る技術の開発など、産業界にも魅力的なフロンティアが広がっていると言えるだろう。
※本記事は 日刊工業新聞2019年9月27日号に掲載されたものです。
<執筆者>
馬場 寿夫 CRDSフェロー(ナノテクノロジー・材料ユニット)
電気通信大学大学院電気通信学研究科応用電子工学専攻修士課程修了。NEC中央研究所、内閣府総合科学技術会議事務局(ナノテクノロジー・材料/ものづくり技術担当)を経て、12年より現職。工学博士。
<日刊工業新聞 電子版>
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