第22回「デジタルツイン モノづくり技術革新」
現実世界を再現
デジタルツイン(デジタルの双子)は、モノづくりやサービスを革新するデジタル化技術で、現実世界の環境を複製した仮想世界がサイバー空間内に構築される。一定条件下ではあるが現実世界を再現できるようになってきたのは、IoT(モノのインターネット)、人工知能(AI)、ビッグデータ(大量データ)分析などの現実データ取得・分析により、モデルパラメーターが常に更新可能となった結果である。
デジタルツイン環境は、これまで主に開発、設計、製造、保守などのモノづくり分野で利用されている。現実世界の状態監視やシミュレーションなどに始まり、その結果から将来の変化も推測できる。このほか、バーチャル・リアリティーなどのサイバー空間体感技術をも活用すれば、現実世界での試作を減らした新たな開発が行える。災害や事故での各種機器の故障や破壊などの予測ニーズにも対応できる可能性がある。
ただ、現実世界を仮想世界に完全に反映するには至っていない。複雑な現実世界を表現するシミュレーション数理物理モデルがまだ十分構築されていないためで、多様な基盤技術に基づく数多くのモデル構築やデータ基盤整備、シミュレーション手法の確立が期待される。
社会の課題解決
デジタルツインの概念は、設備などの装置から都市や地域コミュニティーまでさまざまな業界・領域に展開できる。特に期待が持てるのは、モノづくり技術の難易度が高く、開発期間が長い、さらに開発コストが高い環境・エネルギー・輸送などに関する機器・サービス領域であろう。
身近な例では、風車、ガスタービン、原子力、自動車、船舶海洋などが挙げられる。機器の効率や機能・品質の向上、寿命の予測に加え、開発期間短縮やコスト低減、モノづくり現場の生産性向上が期待でき、低炭素社会の実現などにもつながる。
今後、デジタルツインの対象は機器や工場などのモノづくり関連だけでなく、人体、組織、社会システムにまで広がっていくと見られる。例えば、企業の業務プロセスや人の協働状況のデジタルツインや、エネルギーマネジメントシステムや交通システムなどのデジタルツインも構築されるだろう。
将来、あらゆるものがサイバー空間上で再現、予測、分析され、デジタルツインが企業、地域社会、国、地球のさまざまな社会的課題の解決に資するようになるかどうか、世界の動向が注目される。
※本記事は 日刊工業新聞2019年9月13日号に掲載されたものです。
<執筆者>
大平 竜也 CRDSフェロー(環境・エネルギーユニット)
東京大学大学院工学系研究科博士課程修了。重工メーカーで主にエネルギー機器技術の研究開発・技術戦略企画に従事。2016年より現職。環境・エネルギー分野の研究開発戦略立案を担当。博士(工学)。
<日刊工業新聞 電子版>
科学技術の潮流(22)デジタルツイン、モノづくり技術革新(外部リンク)