2019年8月9日

第18回「コンピューターアーキテクチャー 日本人の存在感示せ」

台頭する中国系
コンピューターアーキテクチャーは、ICTシステムの心臓部であるコンピューターを低消費電力かつ高速に実現する設計手法を研究する学問分野である。ところが、近年この分野での研究発表の場を見渡すと、日本の存在感がほとんどないと感じられる。今回は、2019年6月に米国アリゾナ州フェニックスで開催されたコンピューターアーキテクチャーに関する国際シンポジウム「ISCA」を例に、ICT分野での日本人の貢献について一考を加えたい。

ISCAは論文の採択率が17%という、アーキテクチャー関連のトップ学会の一つである。参加者約2700人(主催者発表、同時開催の学会含む)のうち日本からの参加者はわずか10人程度だった。採択論文62本のうち日本人は米国大学所属の筆頭著者1人と、共同著者として1人の計2人のみである。

その一方で、ISCAでは中国人研究者の存在が目立ち、ほとんどの論文の著者名に中国系と思われる名前を発見できる。学会スポンサーにもGAFAやIBMなどに加えて、ファーウェイ、バイドゥ、アリババなどの企業名が見られた。

活発な発表期待
なぜここで日本人の参加を増やすべきか。分野の潮流の把握は得てしてこのような場への参加から始まるからである。聴講だけでも、各セッションの参加者数や議論の内容から、注目されているテーマが分かる。今回のISCAにしても、招待講演のテーマ(ニューラルネットワークの歴史と将来)、セッション構成の特徴(「量子」や「AIを使ったアーキテクチャー改善」の新設)など、参考になることは多い。また論文の採択を決定するプログラム委員会に入れば、投稿論文の傾向から今後数年の技術動向が分かる。現状は残念ながら、プログラム委員74人のうち日本人は1人にすぎない。

学会は最新技術の発表の場であるとともに産学交流の場である。そこにもっと日本人の貢献が欲しい。学会で発表される成果に期待を寄せるからこそスポンサー企業も関与し、分野全体の発展に貢献する。次回のISCAは来年、3年ぶりに欧州で開催されるとのことである。まずは論文投稿から始め、各種プロジェクトの成果が国際会議で活発に発表されることに期待したい。

※本記事は 日刊工業新聞2019年8月9日号に掲載されたものです。

<執筆者>
木村 康則 CRDS上席フェロー

東京工業大学修士課程修了後、富士通株式会社入社。第5世代コンピューター、京コンピューターの開発を経て、米国富士通研究所CEOとしてシリコンバレーにて研究開発や事業化に従事。スタンフォード大学客員研究員、東京大学客員教授などを歴任。17年より現職。博士(工学)。

<日刊工業新聞 電子版>
科学技術の潮流(18)コンピューターアーキテクチャー、日本人の存在感示せ(外部リンク)