2019年8月2日

第17回「SDGs達成へ 地方大学、イノベ創出」

地域課題を解決
持続可能な開発目標(SDGs)は、2015年9月の国連サミットにおいて全会一致で採択された国際目標である。「気候変動に具体的な対策を」「すべての人に健康と福祉を」「住み続けられるまちづくりを」など17の目標が並ぶ。

SDGsの達成には、科学技術の活用とともに、「地域(市町村)」での取り組みが不可欠であろう。これらは両輪の関係にある。すなわち、地域が抱える社会的課題を解決しその持続性を確保していくことは、科学技術に期待される重要な役割である。同時に、地域課題の解決の試みを通じて科学技術自体も価値を増し、ローカルからグローバルへ、世界にインパクトのある特徴あるイノベーションが生み出され得る。

筆者にとって印象深い事例の一つに、鳥取大学の研究がある。かつて鳥取大では砂丘地の灌漑技術開発に取り組み、“嫁殺し”とまでいわれた過酷な灌水作業から人々を解放した。そして、「鳥取砂丘の研究」から「世界の乾燥地研究」へとかじが切られた。

現在は、エチオピアでの砂漠化(土壌浸食)対策や、スーダンでの乾燥地農業の気候変動対策など、世界の乾燥地でフィールドワークが展開されている。鳥取大乾燥地研究センターは、シミュレーション実験施設を備え、これら国々の研究者を受け入れている。

キラリと光る宝
また、縁あって九州地方では多少なりとも深くお話をうかがう機会を得た。例えば長崎大学では、内閣府のプラットフォーム内で「島嶼SDGs分科会」を立ち上げた(19年4月)。

長崎の離島には再生可能エネルギーフィールドが存在する。漁業の基盤もしっかりある。これらを活用して新しいタイプの沖合養殖をつくっていく。真に「島」だからこそできるイノベーションへの挑戦が始まっている。

表に記した大学に限らず、他の地域でも同様にSDGs達成に向けた“キラリと光る”取り組みが多く存在することは想像に難くない。中には人知れず眠っている宝もあるだろう。少子・高齢化、人口の流出、産業の衰退に直面しているのは地方である。そして、これら課題は世界各地の将来課題でもある。地方大学のSDGs達成に向けた挑戦からグローバルな広がりを持つイノベーションが生み出されることを期待したい。

※本記事は 日刊工業新聞2019年8月2日号に掲載されたものです。

<執筆者>
服部 高明 CRDS上席フェロー

85年(昭60)岡山大学経済学部卒業、同年経済企画庁入庁。17年内閣府経済社会総合研究所総括政策研究官、内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局次長を経て18年より現職(執筆時)。

<日刊工業新聞 電子版>
科学技術の潮流(17)SDGs達成へ 地方大学、イノベ創出(外部リンク)