第15回「CO₂回収利用 化石資源の代替に」
炭化水素を生成
5月31日付の連載でも触れた二酸化炭素(CO2)回収利用(CCU)が昨今、政府でも大きく取り上げられている。温暖化対策を視野に入れたESG投資や国連の持続可能な開発目標(SDGs)の流れの中では、化石資源を新たに採掘して従来通り利用することはさらなるCO2放出につながるため望ましくない。
そこで、すでに地中から掘られて燃やされ大気に出たCO2を回収し、太陽光と水から作られた水素と反応させて化石資源を代替する炭化水素を作ることでCO2を再資源化しよう、というのがここでのCCUの考え方である。この他にもCO2を直接的あるいは植物を経て間接的に回収して分解し、一部を地中に戻すという考え方もある。これらがもし大規模で実現すれば大気中のCO2を減らすことができる。
CO2から合成した炭化水素は従来の石油や天然ガス由来のものと同じ構造を有しているため、特に自動車や石油化学において新たなCO2排出なく現有設備をそのまま使えることが大きな利点となる。欧州では、再生可能エネルギー由来の水素と燃焼排ガスからの回収CO2を反応させメタン導管に入れるパワートゥガスと呼ばれる研究開発プロジェクトや、ドイツ政府主導の大型研究開発プロジェクトであるコペルニクスプロジェクトにおけるパワートゥX、あるいは同様のプロセスから自動車燃料を合成することを狙ったe-fuelと呼ばれるプロセス開発が積極的に進められている。
また大気中のCO2の回収についても、直接大気捕集(DAC)と呼ばれる方法の開発がスイス、カナダ、あるいは米国のベンチャーにより進められている。わが国ではこれまで人工光合成に関する研究が主であったが、近年は金属有機化合物複合体(MOF)を用いたCO2捕集・転換や、ゲルなどの材料を用いたCO2濃縮分離などが進められている。
化学品以外にも
今後のさらなるCO2排出抑制が難しい部門としては、航空輸送、長距離貨物輸送、製鉄、セメント製造等、電化が困難なシステムが挙げられる。また、再生可能エネルギーが電力に占める割合が上がるにつれ、天候などの負荷変動を補うためのガスタービンなどの追随型火力発電の重要性も高まる。石油化学などの化学品分野のみならず、これら分野におけるCCUの今後の研究開発にも期待が集まる。
※本記事は 日刊工業新聞2019年7月19日号に掲載されたものです。
<執筆者>
関根 泰 CRDSフェロー(環境・エネルギーユニット)
東京大学大学院工学系研究科博士課程修了、博士(工学)。東京大学助手、早稲田大学助手・講師・准教授を経て現在、早稲田大学教授。主に触媒化学分野の研究を行っている。JSTさきがけ研究領域「電子やイオン等の能動的制御と反応」研究総括を兼任。
<日刊工業新聞 電子版>
科学技術の潮流(15)CO2回収利用、化石資源の代替に(外部リンク)