2019年7月5日

第13回「中国科学院 技術移転 着実に推進」

6年連続トップ
中国科学院(以下科学院)は国務院(他国の内閣に相当)直属の組織であり、その傘下に104の研究所と二つの大学の他、シンクタンクや多くのスピンアウト企業、出版社をもつ、中国の科学技術イノベーションに関わる多様な機能を一元化した組織である。傘下の研究所における研究開発のみならず、院士(学士院会員や各国アカデミー会員に相当)を選出する顕彰機能をもち、院士に選出されることは中国学術界で最大の栄誉とされている。院士らが中心となり、国への科学技術政策助言を行うことも多い。

約7万人の職員(うち研究者・技術者:約6万5000人)を有する規模に加え、近年の基礎研究力向上が研究アウトプットの増加として表れてきたといえる。科学院は、論文のアウトプット数などで評価されるネイチャーインデックスの研究機関部門で2018年まで6年連続第1位にランクされている。

地方政府と連携
中国においては、IT技術ではアリババ、テンセントらに代表される民間企業での研究開発が活発である一方、民間における製造技術やハードウエア関連技術は、いまだ大学や科学院に依存している。そのような背景のもと、科学院は国の基礎・応用研究を担う主要機関であると同時に、開発研究や企業からの受託研究、試作品受注や、時には製造ライン構築なども活発に行っており、科学院の総予算の5割近くを国からの基盤的経費以外から得ている。

パソコンメーカーのレノボ社に代表される、科学院傘下の研究所からスピンアウトした企業が多く存在する一方で、地方政府(省や市)と科学院傘下の研究所の連携を促す「院地協力」事業などの事業モデルでの技術移転にも積極的である。「院」は科学院、「地」は地方政府を指し、一般的には地方政府が土地と建物を提供し、研究所が人材や技術を提供する。そこに地元企業も参画するケースも多い。

このように、複層的なモデルでの技術移転を着実に推進してきた。深圳の1週間はシリコンバレーの1カ月とも言われるように、政府や組織によるトップダウンの技術移転促進策と共に、現場のエネルギーとスピードがイノベーションの原動力として注目に値する。

※本記事は 日刊工業新聞2019年7月5日号に掲載されたものです。

<執筆者>
新田 英之 CRDSフェロー(海外動向ユニット)

東大工卒、キュリー研究所、ハーバード大学、理化学研究所、名古屋大学等でマイクロ工学、ナノバイオ科学分野の研究に従事。米国コンサルティング会社などを経て現職。文部科学大臣表彰若手科学者賞、名古屋大学石田賞など受賞。工学博士(東京大学)。

<日刊工業新聞 電子版>
科学技術の潮流(13)中国科学院、技術移転を着実に推進(外部リンク)