第11回「先端技術 文理共同で開発・利用」
連携の困難さ
現在の日本は、高校での進路選択にも見られるように、文系か理系かの区分が根強い社会となっている。しかし、生命科学や人工知能(AI)などが社会を大きく変えると想定される中、先端技術の利用に伴う期待や懸念について、文理が共同して検討することが求められている。
このような認識は、科学技術イノベーション政策(STI政策)においても示されている。例えば第5期科学技術基本計画では(いわゆる理系の側の)自然科学と(いわゆる文系の側の)人文・社会科学との連携が必要であるとしている。また、民間企業と大学との共同研究に、大学の人文・社会科学系研究者が参加する事例も見られるようになっている。
しかし、自然科学と人文・社会科学との真の意味での連携は容易なことではない。まず、研究方法や専門用語の違いをはじめとする異分野間コミュニケーションの困難さがある。そして、特に先端技術の利用に関して顕著だが、自然科学の側が問題を提起し、人文・社会科学の側がその“答え”を求められる形になりがちなことがある。さらに、連携の具体化に関するSTI政策上の検討もこれまで十分ではなかった。
多様な形
自然科学と人文・社会科学との連携は、研究開発そのものだけでなく、社会的課題や社会ビジョンの検討、新しい技術を実用化していくプロセスにおいても求められている。また、必ずしも文理が“融合”せず、共通の目的に向かって文理双方の知識を生かし合うことはどうか。これらも連携の形の一つといえるだろう。
図に示したのは、こうした広い視座からまとめた六つの連携方策の提案である。これらの提案は、研究開発プログラムの担当者、大学のマネジメント担当者、大学・民間企業の研究者・実務的専門家が担うことになる。
特に提案(2)は、お互いの問題意識や研究について早い段階から知る機会を増やそうというもので、課題の一つである異分野間コミュニケーションの不足への対応策として重要である。
技術開発の段階から文理双方の視点が欠かせないものとなりつつある中、民間企業や大学において、それぞれの場に応じた人社連携の形を模索していく必要がある。
※本記事は 日刊工業新聞2019年6月21日号に掲載されたものです。
<執筆者>
前田 知子 CRDSフェロー(科学技術イノベーション政策ユニット)
お茶の水女子大学理学部化学科卒。JST情報事業でデータベース開発などに従事した後、現職にて課題解決型の研究開発戦略の検討などを担当。博士(政策研究)。千葉大学非常勤講師(11-15年)。
<日刊工業新聞 電子版>
科学技術の潮流(11)先端技術、文理共同で開発・利用(外部リンク)