第10回「AI開発 社会との関わり重要」
性能以外の要件
人工知能(AI)技術の性能が高まり、さまざまな応用が社会に広がっている。それにつれて、AI技術の性能を高める研究開発だけでなく、「社会におけるAIのあり方」を考えた研究開発が極めて重要になってきた。
情報科学技術に関わる倫理的・法的・社会的課題は2000年代前半から認識が高まり、それらを踏まえた「社会におけるAIのあり方」は現在、国・世界レベルの指針として検討・策定され、主要20カ国・地域(G20)首脳会議や経済協力開発機構(OECD)でも取り上げられるようになった。
日本政府の「人間中心のAI社会原則」、欧州委員会の「信頼できるAIのための倫理指針」、米国電気電子学会(IEEE)の「倫理的に配慮されたデザイン」などが示されている。それらの指針では、例えば安全性・公平性・説明責任などの要件が挙げられている。
指針を満たすには、AI技術の性能向上とは異なる視点での研究開発が求められる。AIと社会との関係を踏まえた「AIシステム」「人間」という二つの視点である。
「AIシステム」の視点で求められるのは、AIソフトウエア工学や機械学習工学と呼ばれる新たなソフトウエア工学の確立である。機械学習はデータの例示によってシステム動作を決める開発法で、手順をプログラムする従来の開発法とは根本的に異なる。ブラックボックス化、差別・偏見の混入、新たな脆弱性などの特有の問題も指摘されている。安全性・公平性・説明責任を確保するため、AIシステムの作り方に関する理論・技術体系の整備が進められている。
国際競争力獲得
「人間」の視点で求められるのは、個人・集団の意思決定を支援するAI技術の強化である。情報の氾濫や偽情報(フェイクニュースやフェイク動画)の流通が人々の判断を惑わせ、国の方向性をも揺るがす、という懸念が強まっている。AIによる助言・支援が欲しい一方で、それに頼りすぎず、人間自身が多面的に考え、主体的に判断する能力を高める仕組みも欲しい。人文・社会科学とAIを融合した取り組みが重要になっている。
このような「社会におけるAIのあり方」を踏まえた研究開発への取り組みが、幅広い応用先を持つAI分野でのわが国の国際競争力の獲得につながると考える。
※本記事は 日刊工業新聞2019年6月14日号に掲載されたものです。
<執筆者>
福島 俊一 CRDSフェロー(システム・情報科学技術ユニット)
東京大学理学部物理学科卒、NECで自然言語処理・情報検索の研究開発に従事後、16年から現職。工学博士。11-13年東京大学大学院情報理工学研究科客員教授、18年から人工知能学会監事。
<日刊工業新聞 電子版>
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