2019年5月31日

第8回「エネシステム 正味ゼロエミッション化」

上昇2℃以内
2015年に採択された「パリ協定」の参加各国は、産業革命後の気温上昇を2度C以内に抑えると合意した。このいわゆる2度C目標の達成には、省エネルギーの徹底だけでなく、大気中の二酸化炭素(CO2)を増加させないためのエネルギーシステムの大転換が必要となる。

ここでエネルギーシステムとは、電気や燃料などのエネルギー源の製造・配送・利用のための装置・機器・インフラのほか、それらの運用技術、さらに化学品などの生産システムをも含む、これまで化石資源を主に活用してきたシステム全体を指す。この対応には発電や燃料の利用で排出されるCO2を取り除く、いわゆる「脱炭素」だけでなく、CO2を循環的に利用する「炭素循環」も必要になる。

「脱炭素」「炭素循環」達成の具体策はさまざま存在するが、大きな柱として「電気のゼロエミッション化」と「CO2回収利用(CCU)」が挙げられる。発電は化石燃料消費の大きな部分を占めており、その改善による排出削減効果は大きい。火力発電時のCO2の回収貯留(CCS)や、原理的にゼロエミッション電源である太陽光発電、風力発電、地熱発電、原子力発電、CO2フリー水素(水素製造時にCO2を排出しない水素)による水素発電などの導入が考えられている。

またCCUについては化学品の運用・生産技術を想起させるが、大気から人工的にCO2を分離回収してカーボンニュートラルな燃料を合成することでバイオマスと同様に炭素循環を可能にする技術になる。CCU関連技術は発展途上なものが多く、今後の研究開発の進展が特に期待される。

最適化が重要
「電気のゼロエミッション化」と「CCU」の技術群は、エネルギーシステム内で相互に関連しあうため、未来の不確実性を考慮しつつ、システム全体としての最適化を見据えた視点が必要になる。エネルギーシステムは各国・地域でさまざまな特性に依存し、インフラ・設備・制度なども異なることから、他国の検討事例をそのまま適用できるとは限らない。そのため、我が国における将来を見据えたビジョンの策定を進めるとともに、研究開発の推進をイノベーションにつなげ、エネルギーシステムの正味ゼロエミッション化を達成することが重要である。

※本記事は 日刊工業新聞2019年5月31日号に掲載されたものです。

<執筆者>
尾山 宏次 CRDSフェロー(環境・エネルギーユニット)

東京大学大学院工学系研究科修士課程修了。石油会社で主に自動車燃料品質などの研究開発に従事。14年より現職。環境・エネルギー分野の研究開発戦略立案を担当。博士(工学)。

<日刊工業新聞 電子版>
科学技術の潮流(8)エネシステム、正味ゼロエミッション化(外部リンク)