2019年5月24日

第7回「EU 数年かけて制度設計」

ミッション設定
欧州連合(EU)の科学技術政策の柱に位置付けられるのが、「フレームワークプログラム(FP)」と呼ばれる多年次の研究助成プログラムである。FPは1984年に始まり、現在は14年から7年間総額748億ユーロの「Horizon 2020(H2020)」が実施されている。H2020では、基礎研究から市場に近い応用研究まで幅広く支援され、社会的課題の解決を目的とした国際的な産学共同研究も数多く実施されている。

このH2020の後継となる21年からの7年間を対象とした「Horizon Europe(HE)」の制度設計が今まさに進められている。HEのプログラム構成の特徴はまず、第二の柱で、特定の課題解決に焦点を絞った分野横断的な「ミッション志向型研究」を導入することである。「プラスチックのない海洋」といったミッションを設定し、その実現に資する研究開発を支援する。また第三の柱で、基礎研究の成果から破壊的イノベーション創出を目指す研究開発を支援する「欧州イノベーション会議(EIC)」の設立も検討されている。

HEの制度設計ではプログラムの検討過程に政策決定者・科学者以外の多様なステークホルダーも関与し、開始数年前から策定作業が始まる。例えば、一般市民も身近に感じられるミッションとすべく、18年2-4月に一般から意見を募集した。また、19年の9月下旬には一般向けのHEの広報イベントが予定されている。

柔軟な運用可能
加えてHEでは、試行錯誤を通じた制度改善を行う。前述のEICは18年からH2020の下でパイロットプログラムが実施されており、その実施状況も踏まえた設計が進められる。FPでは複数年単位でプログラムが作られており、柔軟な運用が可能となる。

わが国でも例年新しいプログラムが実施されるが、制度設計ではまだまだ議論を尽くす余地があるように見受けられる。EUのやり方が全て正しいとは言わないが、わが国においても、単年度予算に縛られない柔軟な運用の下、多様なステークホルダーとの対話やパイロットプログラムによる試行錯誤を重視したプログラムの設計を検討してもよいのではないだろうか。

※本記事は 日刊工業新聞2019年5月24日号に掲載されたものです。

<執筆者>
山村 将博 CRDSフェロー(海外動向ユニット)

東京工業大学大学院社会理工学研究科修了。JST入構後、国際事業担当、産学連携事業担当を経て、NPO法人STSフォーラムにて国際会議運営業務を経験。18年11月より現職。主に英国とEUを担当。

<日刊工業新聞 電子版>
科学技術の潮流(7)EU 数年かけて制度設計(外部リンク)