2019年5月17日

第6回「ナノテク・材料技術 次代拓く"起爆剤"」

長年の蓄積強み
ナノテクノロジー・材料技術は、わが国において長年の技術蓄積に基づく強みを有する技術であり、ナノメートル(ナノは10億分の1)領域における原子分子レベルの微小構造の設計・制御、そこで生ずる諸現象の観測・理解を通じて新しい機能や材料の創出を目指す技術の総称である。

イノベーションのエンジンとして機能するこのナノテクノロジー・材料技術には、大きく四つの潮流がある。

まず一つ目は「技術覇権争いの先鋭化」である。次代の産業競争力を大きく左右する最先端技術分野で、米中を筆頭に技術開発競争が激化している。その中心となる技術はAI、半導体、5G通信技術、量子技術などであり、そのコアを担うデバイス群はナノテクノロジー・材料の革新から創出される。

二つ目は「ビッグデータの利活用」である。世の中から膨大なデータが生み出され、ビッグデータを握る企業が大きく台頭する時代になっている。GAFA(ガーファ)と呼ばれる米国IT企業や、BAT(バット)と呼ばれる中国IT企業がその象徴であるが、データを取得するエッジ側、データを蓄積するクラウド側ともソフトだけでなくハードウエアの進歩が鍵となっている。

三つ目は「持続可能な開発目標(SDGs)」である。SDGsに貢献しうる技術として、水・大気浄化のための分離・吸着材料、資源循環のためのリサイクル技術、クリーンエネルギー創成のための太陽光発電や蓄電池などが挙げられる。

四つ目は「材料開発のスピードアップ」である。一般に材料の発見から実用化までは15-30年の年月を要するが、世界で研究開発競争が激化するなか、成果到達へのスピードが要求されている。そこではシミュレーションとデータ科学を駆使したマテリアルズ・インフォマティクスと称する新たな材料設計手法が活用され、材料開発の基盤技術として必須になってきたと言っても過言ではない。

国際的競争力
ナノテクノロジー・材料技術は、これら四つの潮流の核を担っている技術の源泉であり、日本の輸出産業の主軸である素材・部品・製造・機械産業の競争力とも直結している。したがって、世界の中の日本がこのような技術蓄積をどう進化・発展させていけるかが、次の時代をかたちづくる際の起爆剤になるであろう。

※本記事は 日刊工業新聞2019年5月17日号に掲載されたものです。

<執筆者>
宮下 哲 CRDSフェロー/ユニットリーダー(ナノテクノロジー・材料ユニット)

大阪大学大学院工学研究科博士後期課程修了。JST戦略的創造研究推進事業、文部科学省科学技術・学術政策局での業務を経験後、現職。ナノテクノロジー・材料分野の研究開発戦略立案を担当。工学博士。

<日刊工業新聞 電子版>
科学技術の潮流(6)ナノテク・材料技術 次代拓く“起爆剤”(外部リンク)