第5回「日本の持続的発展 STI政策推進 重要」
一石二鳥の政策
現在、わが国の科学技術イノベーション政策(STI政策)は科学技術基本法(1995年)を頂点とした政策によって推進されている。その体系は図のようなピラミッド形をイメージするとわかりやすい。上から戦略・政策、施策、制度・事業と順番に展開された後に、具体的な研究開発課題が決まる。
このピラミッドの一つの側面は、物理学や生物学などの研究分野ごとに振興をはかる役割を示す。有名なものとして世界最大級の望遠鏡「すばる望遠鏡」や1秒間に1京回の浮動小数点演算が可能な京速コンピューター「京」などの大型の研究施設の整備が国の支援を受けて実現している。
別の側面は、人材育成、地域振興、知的財産など、いずれの研究分野においても直面する課題に対して改善や促進をおこなうような共通的な役割を示す。
個々のSTI政策はこのピラミッドの中に位置付けられて、それぞれ明確な目的と目標を持つが、最近では一つの政策が同時にいくつもの課題解決に挑戦するように計画される例も増えている。例えば18年から始まった「地方大学・地域産業創生事業」は、日本各地の大学に世界から学生が集まるような魅力を持つようにすることを事業目的とし、その魅力作りに地域の産業が加わることを必須条件とした。地域振興と地方大学の活性化を同時に狙っていて、富山県の「くすりのシリコンバレーTOYAMA」プロジェクトなど、ユニークな活動が現れ始めている。
もう一つの新しい流れとして、15年に国連が採択した「持続可能な開発目標」(SDGs)がある。貧困や病気の克服など、SDGsが示した17のゴールはこれから科学技術によって世界に貢献できる具体的かつ高邁な目標を示している。
日本ではさっそく政府に「SDGs推進本部」が設置されて、すべての政策にSDGsの概念を織り込むことが決定された。今や大学においてもSDGsと関連付けた研究が多く見られるようになった。
社会課題解決
このような流れは、「科学の振興のための」STI政策だけでなく「社会課題解決の政策のための」科学も求められていることの現れであろう。科学技術こそがわが国の持続的発展の源であると確信して、今後もSTI政策の推進と仕組みの改良を絶え間なく続けていくことが必要である。
※本記事は 日刊工業新聞2019年5月10日号に掲載されたものです。
<執筆者>
原田 裕明 CRDSフェロー/ユニットリーダー(科学技術イノベーション政策ユニット)
名古屋大学大学院工学研究科博士課程前期修了。富士通研究所に入社後、画像処理、CGなどの研究開発に従事。その後、富士通にて経営企画、情報通信研究機構にて産学連携の業務を経て現職。技術士(電気電子、情報工学)。
<日刊工業新聞 電子版>
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