2019年4月19日

第3回「"ZACCS"注力で存在感」

気候変動対応
科学技術に対する社会的要請は、エネルギー分野では3E+S(安定供給性、経済効率性、環境への負荷低減、安全性)が基本となっているが、昨今は気候変動への対応が一層強まっている。環境分野では循環型社会の構築に向けた動きも活発化している。ただしこれらは、科学技術だけでは解決できない問題で、金融、法的規制や社会制度などを総動員することにより社会全体で取り組むことが必要というのが国際的な共通認識である。

エネルギー分野の研究開発動向としては、再生可能エネルギーが大量に導入されることへの対応が現実問題化している。また規模が大きく高度な技術や各種のノウハウも必要な発電所などで、設計から廃棄までの各過程でのIoT(モノのインターネット)や人工知能(AI)の活用も進んでいる。二酸化炭素(CO2)の排出削減や「CCU」と称されるCO2を回収・利用する技術の研究開発も産学官で活発だ。

環境分野では、衛星の観測データなどビッグデータ(大容量データ)の活用が拡大している。気候変動影響の予測・評価も進展している。予測の空間解像度が向上し、地域レベルの防災・減災への応用が検討されている。また海洋プラスチックゴミ問題の議論も活発化し、科学的な知見の蓄積・体系化が進む。

質・量とも減退
これらの動きとは対照的に、わが国の研究者層や研究活動状況は、総じて見ると量・質とも減退傾向にある。世界的に高水準を維持する分野もあるが、特に工学系の分野で状況は深刻だ。わが国では環境・エネルギー分野の関連産業の規模は大きいが、それを支える研究基盤が弱体化し、危機感が年々強まっている。産学官で協力し、長期的視点に立った対応が必要だ。

一方で研究開発の方向性は、昨今の情勢に鑑みると次の五つがキーワードになる。「ゼロエミッション=CO2排出大幅削減」「アダプテーション=気候変動影響への対応・適応」「サーキュラー=循環型社会」「スマート=データ駆動型社会」「セーフティー=安全性、安定性」である。JST研究開発戦略センターでは英語の頭文字をとってZACSS(ザックス)と呼んでいる。これらのキーワードを中心に研究開発への注力を強めていくことが、今後も日本が存在感を発揮し続けていくためには重要である。

※本記事は 日刊工業新聞2019年4月19日号に掲載されたものです。

<執筆者>
中村 亮二 CRDSフェロー/ユニットリーダー(環境・エネルギーユニット)

首都大学東京大学院博士後期課程修了、博士(理学)。JSTに入構後、英国のビジネス・イノベーション・技能省政府科学局や日本の内閣府政策統括官(科学技術・イノベーション担当)での業務を経験し現職。

<日刊工業新聞 電子版>
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