2019年4月5日

第1回「学問分野融合 "新しいかたち"創出」

社会と共に
社会と共に歩む科学技術イノベーションのあり方とは、いかなるものか。今、科学技術は国境を越え、地球と人類の活動に多大な変化を及ぼすに至っている。2000年を迎えるころからの若きアントレプレナーシップは、20年を経て巨大なサイバー空間を形成し、産業だけでなく実生活へ浸透を続ける。世界のうねりのなかで日本は常に難しいかじ取りを迫られるが、現世代の責任と次世代の夢とをつなぐバトンの一つである科学技術にも、新しいかたちが求められる。

研究開発戦略センター(CRDS)は、国の科学技術イノベーション政策に関する俯瞰的な調査・分析、提案を中立的な立場に立って行う機関としてJSTに設置されている。わが国および人類社会の持続的発展のため、イノベーション創出の先導役となるシンクタンクとなることを目指している。

03年の設立以来、600を超えるリポートを公表し、政府を始め産学官における施策立案に活用いただいている。最近まとめたリポートの一つに「Beyond Disciplines」がある。科学技術が現代のさまざまな問題と向き合うには、個々に発展してきた学問体系を越えて新しい分野を定義し取り組む、または複数分野の連携により新たな融合領域を生み出して取り組むことが求められる。そうすることで、既存分野で新たな発見・進歩が誘発されることも期待される。

日本の研究力
“トランスディシプリナリー”や“コンバージェンス”などの関連表現が海外でも頻繁に用いられるが、日本では融合研究の語を目にする。しかし融合を起こすには時間がかかり、チャレンジングでとても難しい。

日本の研究力は大丈夫か、との懸念が叫ばれるが、研究力の語が意味することは曖昧で、研究の「力」を数値として簡単に測ることはできない。たしかに進歩には競争が欠かせないが、同時に研究は文化に根差したものでもある。研究力とは、研究の文化資本たる面との関係にその本質があるように思う。これからCRDSのフェローたちが毎週、さまざまな領域で起こる科学技術の潮流をお届けする。新たなイノベーションは、私たちの文化に何をもたらすのか。最新の研究開発動向のみならず、そんなことを考えるきっかけにもなれば幸いである。

※本記事は 日刊工業新聞2019年4月5日号に掲載されたものです。

<執筆者>
永野 智己 CRDSフェロー/総括ユニットリーダー

学習院大学理学部化学科卒、グロービス経営大学院経営学修士(MBA)。主にナノテクノロジー・材料・デバイス分野の戦略立案を行ってきた。JST研究監、文部科学省技術参与を兼任。

<日刊工業新聞 電子版>
科学技術の潮流(1)学問分野融合で”新しいかたち”創出(外部リンク)