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水を変換プロセスに利用した廃ガラスの再資源化
産業技術総合研究所関西センター 主任研究員
赤井智子
 産業・生活廃棄物の処理場は近未来に飽和することは予測されており、廃棄物のリサイクル技術の開発は急務であると言える。ガラスは多くはカレットとして再溶融され再利用されるリサイクル性の高い材料であるが、微量イオン金属を含ませて着色したガラスは再利用が難しく輸入ワイン瓶をはじめとして廃棄されている。本研究はこのようなリユースの不可能な着色ガラスを水を利用した低エネルギー処理プロセスで再資源化することを目的としたものである。
 すなわち瓶・窓剤に使用されているソーダ石灰ガラスを、水溶液プロセスを用いてハイドロシリケートへと変換し、そのシリカ源から多孔体や複合体を作製し、建築材料や機能性材料へと変換する新規低エネルギー変換プロセスを提案する。そのプロセスを開発するために、ガラスと水の反応をプロトン多次元NMR法、顕微ラマン法を用いて基礎的に解明する。


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光電池を目指したエネルギー変換素子
奈良先端科学技術大学院大学
物質創成科学研究科 助教授
池田篤志
 新しいエネルギー源として、安全性や将来性を考えると、光エネルギーの利用がもっとも有力であると考えられる。しかし、光エネルギーはそのままでは貯蔵できないため、化学エネルギーや電気エネルギーへの変換が必要となる。現在、この変換素子の変換効率および耐久性の向上は、高いコストパフォーマンスを得るために必要不可欠な課題であり、実用化の鍵を握っている。

(1)カプセル型分子による[60]フラーレン(C
60) 単分子膜の作成とその光電素子としての評価
 [60]フラーレン (C
60) は電子受容体として最も期待されている分子のひとつである。光電素子として利用する上で、高い変換効率を実現するためには、C60 を高密度で集積化する必要がある。しかし、耐久性を考えた場合、集積化した C60 間での2量化など副反応による劣化を防ぐために隔離が必要となる。高集積化と隔離という相矛盾する問題を解決するためにはどのようにすればよいであろうか。
 この問題を解決するためにカプセル型分子により C
60 を隔離することを考えた。すでに、本申請者は、水溶液中において2個の化合物 1 がカプセル型の構造を取り、その空孔内に C60 を取り込むことを明らかとした(Chem. Commmun., 1999, 1403-1404)。さらに、プレ実験により、このカプセル型分子 2 を用いれば C60 1個が占める専有面積の増加は最小限に抑えられ、高集積化が可能となることが明らかとなった(J. Chem. Soc., Perkin Trans 2, in press)。また、カプセル型分子 2 はこれまで不可能であった未修飾の C60 を単分子膜状に並べることをも可能とする。実際に、カチオン性カプセル分子 2 を用いれば静電的相互作用によりアニオン性表面を有する金電極にC60 を単分子膜状に配列させることが可能となった(図1)。
 今後、基板上に配列させた C
60 内包カプセル型分子において光電流の発生を確認した後、量子収率を測定することにより、その光電池としての性能を見積もる。

(2)交互積層法を用いた複合膜による光電素子の性能向上
 次に、光電効率をさらに向上させるためには、前述の C
60 の単分子膜に電子供与性の置換基を付加した2分子系や3分子系に拡張する必要がある。合成的手法によりこれらの分子を作り出すには大変な労力とコストが必要となる。そこで、より簡便な方法である交互積層法を用いることにする。
 この手法は、カプセル型分子の水相側がカチオン性であることを利用し、静電的相互作用によりアニオン性ポリマーを吸着させるものである。このときアニオン性ポリマーには、あらかじめある割合で電子供与性部位を導入する。連続的にこの操作を繰り返すことにより、電子供与性基である C
60 を取り込んだカプセル分子と電子供与性基を含むポリマーの交互に並んだ膜が調整できる(図2)。この交互膜についても、光電素子としての性能を評価する。
 以上のように、本法は電極基板上に C
60 を分子レベルで精密に集積化を行うものであり、効率的なエネルギー変換と耐久性を同時に可能とする極めて独創的な研究である。

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環状DNAを用いた人工光合成系の構築
北海道大学電子科学研究所 助教授
居城邦治
 光合成は光エネルギーを励起子伝達と電子伝達を通じて化学物質へ変換するきわめて効率の良いシステムである。最近、光捕集アンテナ色素系の分子配列集積構造が図1に示すように詳細に知られるようになり、色素の配列と励起子伝達の関係が重要視されている。もし光捕集アンテナ複合体を模倣して、色素分子を環状に配列することができれば、光合成に近い励起子伝達や電子伝達を再現できると考えられる。しかし、従来の超分子化学ではこのような環状構造を作ることは困難であった。
 そこでこのような環状分子としてDNAに着目した。ある細菌にはプラスミドと呼ばれる環状二本鎖DNAが存在することが知られている。本研究の目的は、このような環状DNAを利用することで色素分子を環状に配列させ、特異な光機能を有する超分子システムを構築することにある。
 具体的には、1)色素分子が核酸塩基に結合したヌクレオチドを組み込んだ環状二本鎖DNAを酵素反応により作製する(図2)、2)気液界面において環状一本鎖DNAを鋳型とした両親媒性色素分子構造体を作製する(図3)、3)作製した色素環状配列集積構造の励起子伝達を近接場光顕微鏡を用いて単一分子レベルで計測することで光捕集アンテナ分子としての働きを明らかにして、さらに光電変換薄膜と組み合わせて人工光合成系を構 築する。


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超分子相互作用を用いた環境調和型物質変換プロセス
北海道大学大学院地球環境科学研究科 助教授
小西克明
 分子触媒の精密設計は、「効率的で無駄のない物質合成」を実現するための鍵である。このための設計指針としては、反応活性点、基質活性点など、役割の異なる複数モジュールを合目的的に配置することが必須となる。この要請に対し、本研究では、「必要モジュールを、分子間相互作用を用いて空間特異的に組織化する」という新しいアプローチを提案する。すなわち、超分子化学で培われた分子間相互作用を駆使し、「選択的で効率的な物質変換」という、化学が究極的に目指すべき命題に対して、独創的かつ一般性の高い方法論を持って挑戦する。
 具体的には、人工系、生体系を問わず、多くの化学反応でみられる複数官能基の協同触媒作用にフォーカスする。通常は、これらを同一分子内に組み込むのが常道であるが、共有結合的方法論に基づく分子設計には限界がある。これに対し、本研究では、協同的に作用する部位を含むモジュールをあらかじめ個別に準備し、これを多点水素結合や配位結合などの方向性をもった分子間相互作用で、空間特異的に組織化する。すなわち、「混合」という単純な操作により、典型/遷移金属、酸/塩基、触媒基/不斉基などのペアを組込んだ超分子複合体を合成し、それを用いて無駄のない高効率、高選択的な物質変換を実現していく。


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機能性炭素反応種を用いた合成反応
徳島大学薬学部附属医薬資源教育研究センター 助教授
新藤充
 省資源、省エネルギー、環境適応型化学の研究は社会的要請もあり急務である。その達成の為にも現代の有機合成化学は高い効率性、精密性が要求されている。基本的反応活性種である古典的カルバニオン(炭素陰イオン)は1度の反応で活性を失う単一機能型である。本研究では効率性が格段に高い次世代機能性カルバニオンの化学を開拓し、確立することを目的とする。
 機能性カルバニオンとして、新たな反応活性種を生成するカルバニオン及び高い求核性を有する超反応性カルバニオンを考える。これらは、標的化合物の合成において、新カスケード反応の開発による工程数や操作数の劇的な短縮化、従来法では合成困難であった化合物の簡便合成を可能とする。当然、基本化学種の創製であるから学術的にも価値が高く有機化学のみならず周辺学際領域への波及効果も大きい。筆者は既にイノラートアニオンという機能性カルバニオンの新規独創的合成法の開発に成功しており、研究の突破口を開いている。
 本研究はイノラートアニオンの機能開拓を機軸に、各種求電子反応剤との反応、カスケード反応への展開、不斉合成、分子構造の解明等の研究を行う。そして、生理活性天然物の効率的合成へ展開する。超反応性カルバニオンとしてはエステルジアニオン、アミドジアニオン等を研究対象とし、イノラートと同様、その化学の解明を目指す。
 機能性カルバニオンの化学が明らかとなれば、有機化学に新しい反応活性種の分野が拓け、実験室レベルから工業レベルまで広範な有用物質合成に適用され、現代精密有機合成化学の進歩に大きく貢献すると期待している。


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プロテインメモリーを利用した低温高機能酵素のデザイン
神戸大学大学院自然科学研究科 助教授
田村厚夫
 一般に、タンパク質分子は、他のタンパク質等の分子と相互作用し、構造機能を変化させることで、生体内での機能の制御や情報の伝達を行っている。この相互作用が解除されれば通常は元の構造に戻るが、本申請のタンパク質分解酵素系では、解除後も構造機能の変化が"記憶(メモリー)"され、この記憶はタンパク質の寿命まで保持されることが知られている。プロテインメモリー現象と呼ばれるこの性質を利用し、相互作用の相手のみを変化させることで、"痕跡を残さず"に標的酵素の高機能化を目指す。この系は、遺伝子上連続しているため、自動的に1遺伝子2タンパク質相互作用系となっており、酵素のアミノ酸数275に対し、相互作用の相手プロペプチドは77残基であることから、小型側の変換で大型側の変換を果たすという情報転換の妙味がある。
 そこで、今まで試験管内高速進化(進化工学とコンビナトリアル法)法で行ってきた酵素のデザインをさらに発展させ、プロテインメモリー現象の利用と組み合わせることで、低温(-5℃から+10℃程度)に於いてこのタンパク質分解酵素を高機能化することを目指す。さらに、低温高機能であることの原理的解明を図る。また、酵素をナノメートルスケールの繊維に固定化する新しい手法を開発して寿命を延ばすことも試みる。これらの結果得られた低温高機能化を、省エネルギーと低環境負荷につなげたい。


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廃熱から電気を作る環境にやさしいセラミックス
早稲田大学理工学部 教授
寺崎一郎
 本研究の目的は,無毒で豊富な元素でできた酸化物セラミックスだけを用いて,熱を電気に変換する素子(熱電発電素子)を試作することである。同時に,作製したセラミックスの熱電変換特性を,mmからサブmmの空間分解能でマッピングできる新測定法「熱電顕微鏡」の開発を目的とする。
 本研究の新規性は,以下に述べる新材料・新評価法・新プロセスを相互に関連させつつ同時に開発して,素子を試作する点にある。

1 新材料
 筆者は,層状酸化物NaCo2O
4が,異常に大きな熱起電力を示すことを発見した。これは,他の酸化物に比べて群を抜いて優れており,TeやSbのような毒性元素を含まず,600℃以上の大気中でも使用可能である。元素置換や周辺物質の探索により,より熱電特性の高い酸化物を探索する。NaCo2O4はP型であるため,素子に必要な熱電特性の高い N型 酸化物の探索も行う。

2 新評価法
 本研究には,酸化物特有の不均一(酸素の不定比や相分離)に起因する局所特性を評価する装置がぜひとも必要である。そこで本研究では,熱電変換材料でできた探査針を試料に押し付けて,そこに電流を流して生じるペルチェ効果による温度変化を測定することにより試料の特性を評価する「熱電顕微鏡」の開発を目指す。

3 新プロセス
 はんだや金属電極を用いずに,セラミックスの焼結作業だけで熱電素子を作製する。これが成功すれば,作製行程・時間・コストを大幅に短縮できる。

 これらの技術は,酸化物熱電変換という分野の確立にとどまらず,高温超伝導体やアルカリ電池材料を含む酸化物エンジニアリングの基盤技術に貢献できるものと確信している。


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ポリウレタン分解酵素の修飾と機能改変
筑波大学応用生物化学系 講師
中島(神戸)敏明
 プラスチックの中には、その構成単位中にエステル結合やウレタン結合といった加水分解を受けやすい構造を持ったものも多い。これらの結合が解かれることによって、プラスチックはその構成単位に分解される。構成単位であるカルボン酸やアルコール、アミン等は化学合成原料や発酵原料として再利用可能である。
 低分子化合物(オリゴマー等)においては、エステル結合やウレタン結合は酵素によって容易に加水分解を受ける。しかし、その基質が不溶性の固体ポリマーである場合には、これを分解できる酵素はほとんど報告されていない。
 酵素が固体基質を分解するためには、触媒活性はもちろんであるが、固体表面をいかに認識し、そこに「取りつく」かが鍵となる。エステル系の固体ポリウレタン分解菌、Comamonas acidovorans TB-35株由来のポリウレタン分解酵素(PUR esterase)は、活性部位の他に、PUR表面に疎水的に付着する部位を有する。また、この触媒部位と固体表面付着部位は互いに独立して機能しているということが示唆されている。このことは、逆に、固体高分子に対して分解活性を持たない他の酵素に、本酵素の固体基質付着部位を付加することによって、固体分子を基質とできる分解酵素を創製できる可能性を示唆している。
 そこで、低分子のエステル結合やウレタン結合を分解できる酵素に、PUR esteraseの固体表面付着部位を融合させることにより、新たなプラスチック分解酵素の創製を試みる。これを用いて、各種プラスチック(合成高分子)廃棄物のモノマー化を行い、資源としての再利用の道を探る。


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層状ニオブ・チタン酸塩の層間修飾と光活性を利用する機能化
東京農工大学大学院生物システム応用科学研究科 助教授
中戸晃之
 層状ニオブ・チタン酸塩の層間挿入反応と光活性とを利用して、環境・エネルギー問題に資する新しい材料を開発します。K4Nb6O17、HTiNbO5、H2Ti4O9などの層状ニオブ・チタン酸塩は、層間に他の分子を挿入する性質を有し、また紫外光照射によって光触媒活性を示します。この二つの性質を共に利用することで、他の物質からでは不可能な材料への変換が期待できる。
 本研究では、層状ニオブ・チタン酸塩特有の性質を利用して、(1)水中の有機汚染物質の除去・分解および(2)光エネルギー変換のための、新規物質を開発する。
 (1)では、水中の有機汚染物質の層間への吸着除去と酸化物の光活性を利用した分解とを一つの物質で行わせる、新しい材料を提案する。層間構造を修飾して水中の有機塩素化合物などを効率的に吸着させ、吸着有機分子を光分解によって無害化することが目標である。
 (2)では、紫外光にのみ活性なこれらの酸化物を、層間修飾によって可視光応答化させる。色素分子の層間挿入と配列制御によって可視光活性を実現し、層状ニオブ・チタン酸塩を用いる太陽エネルギー変換の新しいルートを開くことをめざしている。
 (1)(2)とも、層間挿入反応というナノケミストリーの手法により、元の層状ニオブ・チタン酸化物の性質を変換して目的の物性を導くことを基本コンセプトとしている。


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光と相互作用をするエネルギー変換高分子系の構築
奈良先端科学技術大学院大学物質創成科学研究科 助教授
中野 環
 本研究では、π-電子系発色団を有するモノマーの設計、重合反応の立体制御、および生成ポリマーの配列制御によるπ-電子系の空間配置が制御された高分子系の構築と機能発現について研究する。得られる高分子系には、制御構造に基づく光との特異的な相互作用に基づく様々な機能が期待される。目標とする高分子の基本構造は、発色団の安定なπ-スタック構造の集積による剛直な棒状あるいはらせん形であり、さらに剛直な高分子鎖を高度な配向性をもって集合体形成させ発色団の空間配置が制御された高分子系の生成を狙う。
 このような高分子系には、容易なエキシマー形成による従来知られていないエキシマーモードでのエネルギー移動とそれに基づくアンテナ分子系としての性質が予想される。この特性と特異な分子形状に基づいて高効率で方向性を持ったエネルギー移動路を構築できる可能性がある。また、エネルギー異動だけでなく芳香環側鎖間を電子がホッピングすることにより、ポリマー鎖にそった電子移動が可能か否かについても検討する。
 本研究で目標とする高分子構造および光物理学的特性およびに基づいて、光触媒機能、特異な光電変換機能、非線形光学特性の発現が期待される。光触媒反応の対象としては有害物質の光分解(環境浄化)を目標の一つに想定しており、環境浄化への貢献をはかる。


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C1資源を活用する不斉触媒反応
東京大学大学院工学系研究科 教授
野崎 京子
 本研究の目的は、学問的に我が国が世界を大きくリードしている均一系不斉触媒開発の研究を、環境対応の視点から見直し、我が国独自の新科学技術として発展させるための基礎を築くことである。この目的達成のために、ファインケミカル合成におけるC1資源の積極的な利用を提言する。すなわち、新しい触媒系の開発によって、C1化合物を広範な光学活性化合物合成のための資源として活用し、もって環境調和型物質変換プロセスを実現することを提案する。
 このために、具体的な反応として(1)オレフィン類の不斉ヒドロホルミル化(不斉オキソ)、(2)一酸化炭素とオレフィンの不斉交互共重合、(3)二酸化炭素とエポキシドの不斉交互共重合の3題目をとりあげ、触媒反応過程を詳細に調べ、論理的な触媒設計をおこなう。また、固定化による触媒の回収・再利用、連続使用、有機溶媒を用いない系への発展も検討する。いずれの反応においても触媒的に不斉合成がおこなえることは予備的に確認しており、この研究では、真に実用化に耐え得る触媒効率の達成をめざす。
 必要なものだけを効率良く合成することで、省資源、省エネルギー型のプロセスが実現できる。本研究の成功によって光学活性化合物が効率的に供給されれば、ファインケミカル合成の新技術として、産業界にも大きなインパクトを与えると期待している。


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蛋白質フラスコを用いた高効率酵素型触媒
九州大学大学院工学研究院 助教授
林 高史
 酵素は一般的に基質認識部位、活性部位および反応活性種の安定化に寄与する反応場の3点セットを有し、極めて温和な条件下で超効率かつ選択的に物質の変換と制御を行っている。 しかし、酵素は極めて限られた基質とのみ特異的に反応するため、多様性の拡張にはかなり難しい側面があった。一方、筆者は活性部位が補欠分子から成り立っているヘム蛋白質、特にミオグロビンに着目して研究を開始している。 ミオグロビンの場合、補欠分子であるヘム(鉄ポルフィリン)を蛋白質から取り除き、非天然の金属ポルフィリンを導入して再構成することが可能である。
 この利点を生かして、本来は酸素運搬体であり基質認識部位も存在しないミオグロビンに優れた酵素(生体触媒)機能を誘導するのが本研究の主目的である。具体的には、
(i) ヘム末端の修飾に基づいた基質認識部位を有する再構成蛋白質の調製
(ii) ユニークな非天然型活性部位を有する再構成蛋白質の調製
(iii) 再構成蛋白質の触媒活性評価と触媒反応(物質変換・有害物質分解)への応用
を主課題として機能化蛋白質の創製を目指す。
 特にミオグロビンのヘムポケットを「分子サイズのフラスコ---反応場---」と考えて利用し、有効な活性部位(金属錯体)と認識部位を有する補欠分子を導入して酵素型触媒を設計する点が特徴である。したがって水中でも安定かつ容易に反応活性種が生成し、物質変換を行う環境負荷軽減型の全く新しい多様性を秘めた生体触媒の誕生が期待される。
 以上本研究では、有機合成化学と蛋白質工学を融合した画期的な次世代型人工酵素の開発に挑戦する。


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高分子結晶工学を基盤とする有機材料設計
大阪市立大学大学院工学研究科 助教授
松本章一
 バルク材料としての構造,特性や機能だけでなく,これらが原子や分子レベルで精密に制御された材料設計ならびに合成への要求が高まっているが,デザインされた各部品の集積による従来の材料設計では,高度な機能を備えるために複雑で多段階にわたる合成過程が必要となり,繁雑な単離・精製プロセスを避けられない。これに対して,結晶格子支配下で進行する固相でのトポケミカル反応を利用すると,厳密に構造制御された有機結晶をより少ない反応段階で合成設計できる.有害で危険な有機溶媒を用いない固相有機合成反応は,高選択率かつ高収率で反応が進行し反応後の分離操作なしにそのまま生成物を得ることができるという特徴をもち,環境に対する負荷低減の面で重要となるクリーンで経済的な有機合成手法である。
 本研究は,高分子結晶工学に立脚した反応設計,すなわち化学構造だけでなく結晶構造に基づく反応性や機能の設計を含めた新しい分子設計に基づいて,次世代の材料設計に重要な役割を果たすと予測される機能性高分子結晶の創製に関する基礎的研究を行うことで,無溶媒固相有機合成を効果的に行うための合成設計の基本原理を確立しようとするものである.ここでは固相重合反応だけでなくインターカレーションを利用した固相有機合成反応についても研究を行い,材料設計のための新規な有機合成反応の方法論を開拓する。


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生体膜表面に吸着する環境ホルモンの計測システム
北海道大学触媒化学研究センター 助教授
叶 深
 ゴミ焼却や工業廃棄物から発生したダイオキシン類化合物の一部は内分泌撹乱物質(環境ホルモン)として知られ、微量ながら生体の女性ホルモンのレセプターと結合して蛋白質合成を起こしたり、他のホルモンバランスを乱したりして、地球上の生態系に対して重大な影響を及ぼしていることがと報告される。しかしながら、生体膜の表面におけるダイオキシンの計測法は確立されておらず、特に生体内への侵入過程の詳細にまだ解明されていないのが現状である。
 本研究は、生体膜表面における極微量のダイオキシン類化合物の吸着過程と表面濃度を高感度で決定できる計測システムの開発を目的とし、これまでに実現されていない可視赤外共鳴和周波分光測定システムを構築し、生体膜へのダイオキシン類化合物の吸着過程と吸着構造・配向を解明する。
 従来の計測手法では選択的に生体膜の界面のみ調べることは困難である。本研究は二次非線形光学手法の和周波発生(SFG)分光法を主な研究手段として用いる。短時間で高感度のSFGスペクトルが得られるように、フェムト秒レーザーパルスを用い、広領域のSFGスペクトルを同時かつ高感度で計測可能なシステム(ブロードバンドSFG)を構築し、擬似生体膜の表面吸着する極微量のダイオキシン類化合物の吸着過程の解析に応用する。SFGの特徴を生かし、生体膜表面にダイオキシン分子の吸着速度、吸着率、吸着配向・構造及び下地単分子膜の構造や官能基の種類の影響について詳細に調べる。
 これらの解析結果から、ダイオキシン分子が生体膜での吸着状態及び進入過程についての重要な情報が得られると考えている。また、赤外分光法やラマン散乱及び水晶子マイクロバランス法などの種々の測定法を併用し、詳細な界面分子の情報を得る事により、分子レベルで分子識別可能な計測システムとして開発したい。さらに将来、ダイオキシン分子と生体膜間の電子移動のダイナミクスについて調べ、蛋白質間における電子移動過程の解明につなげていきたいと考える。
 この研究は環境化学の計測分野のみならず、強力な界面研究手段となる和周波発生分光法の確立は、表面化学や表面物理や生物学などの広い分野の研究にも大きなインパクトを与えるものと確信している。


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