一粒の柿の種
サイエンスコミュニケーションの広がり
渡辺政隆
岩波書店 2008年
岩波書店発行の雑誌「科学」の連載をまとめた一冊。サイエンスコミュニケーションがいかに生まれてきたのか、それが現代社会にとってどうして重要なのか、が、よく理解できる本である。といっても、その重要性を前面に押し出しているわけではない。タイトルからも推察されるように、寺田寅彦の文章や、科学の大衆化の歴史などを題材として、著者独特の深い見識に基づいた小気味よいエッセイとしてつづられていく。読み進むうちに、自然とサイエンスコミュニケーションが、われわれの生活をいかに豊かにしていくのか、あるいはその可能性を秘めているのかが納得させられる。けっして教科書やノウハウ本ではないところが、むしろ説得力を持っているといえるだろう。
(渡部潤一:国立天文台天文情報センター 教授)