サバルタンは語ることができるか
G・C・スピヴァク 上村忠男/訳
みすず書房 1998年
権力をめぐる構造と言説の中で、被従属的地位にある「サバルタン」(女性、労働者、etc)が自らの言葉と論理を持って「語る」ことの困難さを、スピヴァクは「サバルタンは語ることができるか」の問いかけとともに提示する。今、科学コミュニケーションの文脈においてサバルタンを「市民」と読み替えたとき、そこには権力者である専門家とサバルタンである市民の間の関係性、権力構造、そして支配的言説の形式に関する問題が見えてくる。果たして、彼らの言葉と論理に拠って市民は科学を語ることができるのだろうか。一見異なる文脈にあるスピヴァクの論考は、科学と社会の相互作用、特に科学を巡る「語り」の権力構造を考える上でも示唆的である。
(標葉隆馬:総合研究大学院大学先導科学研究科 助教)