トランス・サイエンスの時代
科学技術と社会をつなぐ
小林傳司
NTT出版 2007年
本書は、まず全体の章立てをはじめに説明することで、読者に読む心構えを作らせようとしている。科学者と社会の関係において、「科学者は、何のために研究をするのか。自己満足のために研究するのか」ということを改めて考えさせられた。科学と社会の関係について、ブライアン・ウィンの欠如モデル、アーンシュタインの市民参加の階梯、ワインバーグのトランス・サイエンス等の学説を引いて、論理的に説明しており、自身の経験上納得いくものが多くあった。一方、ワインバーグの第3類型の考えや、教科書検定で注文がついた「科学によって明らかにできないこともあるのだ」については反論を唱えたい。私は、「科学がさらに進まなければ明らかにできないこともあるのだ」と考えている。森羅万象、世の中にあるものは、すべてがある法則によって行われており、法則に外れたことは行われていない。予知できないのは、まだ、そこまで人間の科学的知見が到達してないと考えているからである。ただ、それが解明できない間は、専門家の知の限界を見極め、「トランス・サイエンス」の時代を進めるべきであろう。
(小林悦夫:財団法人ひょうご環境創造協会 顧問)