責任という原理
科学技術文明のための倫理学の試み(新装版)
ハンス・ヨナス
加藤尚武/監訳
東信堂 2010年
2008年10月、国内外から800人近い政・産・学・官・市民のリーダーが参加し、京都で21世紀の科学技術と社会のあり方について議論が行われた。第5回STSフォーラムである。皇太子殿下にご臨席いただいた最終セッションで、ドイツのシャバン教育科学大臣は、哲学者ヨナスを引用しながら、今後の科学技術政策の根幹に次世代への責任倫理を置くべきとの格調高い演説を行った。
本書は、科学・技術の集団的・累積的発展と人工環境の拡大によって、同時性・直接性・相互性という特質をもった従来の倫理に代って、未来世代と自然への責任倫理が新たに必要になることを強調している。また、極端にはしるユートピア思想と現代科学技術を批判し、正義、慎慮、謙遜、実践を主張する。今年は、21世紀の科学の責務として、「社会のなかの、社会のための科学」を謳ったブタペスト宣言から10年目、ポスト京都議定書時代への門を開くCOP15の開催年でもある。ヨナスの主張は、不透明と不信の時代にあって、われわれの思考と行動に強い視座と勇気を与えてくれる。彼の影響を抜きにして、今後の科学技術と社会は語れない。
(有本建男:独立行政法人科学技術振興機構社会技術研究開発センター センター長)