成果概要

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海上豪雨生成で実現する集中豪雨被害から解放される未来[3] 気象情報の潜在空間表現

2025年度までの進捗状況

1. 概要

本研究開発プロジェクトでは、海上豪雨を生成することにより、陸上における集中豪雨被害を避けることを目標としています。そのためには、気象の運命を、陸上での豪雨に向かうシナリオから、海上豪雨によって大気中の水蒸気量が減少し、豪雨被害がなくなるシナリオへと誘導する必要があります。ところが、気温、湿度、風向きなどの気象データを網羅的に扱うと、超高次元のデータとなり、予測や制御が難しくなります。一方で、似たような気象場から進行した先が、いくつかの典型的なパターンに分かれるならば、その「運命の分かれ道」をうまく記述することで、効率的な制御が期待できます(図1)。そこで本項目3では、気象制御に重要な本質的な低次元の自由度、すなわち潜在空間表現を獲得することを目標に、レザバー計算、クープマンモード分解、ランドスケープ解析の3つのアプローチで研究を進めています。

図1
図1:気象場の発展の潜在空間表現のイメージ

2. これまでの主な成果

レザバー計算を用いたアプローチでは、気象場の膨大な変数をそのまま扱うのではなく、豪雨の発生や回避に関わる低次元構造を取り出し、その時間発展を予測・制御する手法を開発しました。特に、カオス力学系においてアンサンブル予測の分布が一時的に低次元な形をとる性質に着目し、この表現から極端イベントを回避するための制御入力を求める枠組みを構築しました。また、限られた介入候補から動的に最適な操作を選ぶボトムアップ型制御手法を開発し、Lorenz-96モデルでは1~2地点への局所的介入でも極端イベントを高い確率で回避できることを示しました(図2)。さらに、高解像度の気象シミュレーションモデルであるSCALE-RMによる2015年関東・東北豪雨の再現実験から、わずかな介入量の違いが降水量を大きく変える、フラクタル的な鋭敏性が存在する可能性を明らかにしました。

図2
図2:限られた局所的介入を用いて極端イベントを減少させる方法(Mitsui et al. Nonlinear Processes in Geophysics, 2025)

クープマンモード分解を用いたアプローチでは、複雑で非線形な気象の時間変化を、少数の重要な成分からなる扱いやすい低次元モデルとして表現する手法を開発しました(図3)。具体的には、気象の変化を直接すべて追うのではなく、観測量と呼ばれる特徴量の時間発展として捉え直すことで、気象制御に必要な力学的情報を取り出します。SCALE-RMを用いたwarm-bubbleシミュレーションの検証では、提案手法により、予測精度とモデルの簡潔さのバランスを考慮しながら低次元モデルを抽出できることを示しました。さらに、短時間の気象シミュレーションデータから、重要な成分だけを選び出して低次元モデルを構成する手法も開発しました。加えて、低次元モデルを活用したデータ同化手法の開発や、豪雨形成メカニズムの解明に向けた研究も進めています。

図3
図3:豪雨に関わる気象場の潜在モードの検討

ランドスケープ解析を用いたアプローチでは、豪雨が組織化して強まるシナリオと、そうならないシナリオの分岐構造を解析しました。2025年度は、高次元で複雑なアンサンブル気象予測データを扱うため、主成分分析や多様体埋め込みによって気象状態を低次元に整理するだけでなく、データ分布や時間変化の軌道構造を幾何学的に評価する指標を組み合わせた解析ワークフローを構築しました。これにより、豪雨形成過程における状態遷移やシナリオ分岐を、可視化と定量評価の両面から調べる基盤を整えました。さらに、現実的な制御入力の範囲で、対象とする気象現象を制御できるかどうかを評価する新しい数学理論を構築しました(図4)。これにより、分岐構造の理解に加えて、どの状態変化が実際に制御可能かを評価できるようになり、豪雨形成の理解から制御戦略の設計へとつなげる基盤が整いつつあります。

図4
図4:ε-attracting basinを用いた台風12号(2020年)のランドスケープ解析

3. 今後の展開

次年度からは、これまでの研究によって得られた知見を用いることで、気象現象の潜在空間表現の獲得を行う手法のより具体的な定式化や、現実の気象データを含むより複雑なデータへの適用を進め、手法の有効性を検証し、現実の気象制御を目指した研究を進める予定です。