成果概要
最終更新日:
海上豪雨生成で実現する集中豪雨被害から解放される未来[5] 海上豪雨生成に有効な介入操作の検討
2025年度までの進捗状況
1. 概要
最近の地球温暖化の進行に伴って、世界の様々な場所で豪雨がより頻繁に発生する傾向にあります。日本も例外ではなく、「線状降水帯」とよばれる特定の地域に数時間にわたって停滞する細長い形状をもった降水システムによる豪雨が増えているとの指摘があります。こうした背景において、本プロジェクト「海上豪雨生成で実現する集中豪雨被害から解放される未来」では、海上豪雨を人為的に強化することで、下流の陸上の豪雨を減少させることを狙っています。具体的には、「人が住む陸上ではなく、上流にあたる海上で“何らかの刺激”によって降水を生じさせて雨の種となる水蒸気を減らしてしまおう」というものです。
梅雨の時期には、上流に位置する東シナ海では暖かい海面からの蒸発や南西側からの大量の水蒸気の輸送によって積乱雲が容易に発達できるような環境が整っています。実際にこの時期の降水を注意深く眺めると、九州の西側の小さな島をきっかけにして、その下流で降水が連なって発達する様子が確認できます。こうした気象学的な知見から、項目5「海上豪雨生成に有効な介入操作の検討」では、(人間による)“少し”の刺激であっても海上での人為的な降水の生成・強化が可能ではないかと考えて、梅雨期の豪雨事例を対象に、陸上の降水の抑制につながるような気象介入について調べています。具体的には、「どのような場合に、どのような手法であれば有効な気象介入が可能か?」を明らかにすることを目標にして、過去に生じた豪雨事例を様々な物理量を用いて整理するとともに、数値気象モデルを使って再現して、そこに“現実的”と考えられる気象介入の手段を試して有効性を確認するという作業を進めています。
2. これまでの主な成果
本研究開発項目では、様々な豪雨を対象として、再現実験および気象介入実験を実施しました。特に、2021年8月12〜13日の九州豪雨事例については、積分開始から12時間の時点で高度300m以下の水蒸気混合比にランダム摂動を与え、多数のアンサンブル数値実験を実施しました。
海上豪雨形成という気象介入を有効に行うためには、どの地点に気象介入すれば降水変化が生じやすいかを事前に評価する必要があります。そこで、降水量差とラグ回帰係数の内積値に基づく気象介入効果指標を作成しました(図1)。
感度解析に基づいて適切な場所・タイミングに豪雨形成を促進するような海上構造物を設置した場合、約5〜8%の豪雨低減効果が確認されました(図2)。加えて、気象庁の「線状降水帯の事例」データを用いて、九州7県および山口県における線状降水帯の発生数を集計しました。その結果、海上豪雨形成が有効な気象介入手法となり得る事例は、1年あたり約4件存在すると推定されました。
オーバーシーディングについても、数値気象モデルWRFを用い、2014年広島豪雨、2017年九州北部豪雨、2021年九州北部豪雨等に対して、モデル中の氷晶核数を操作することでシーディングを表現した気象介入実験を行いました。その結果、3事例すべてにおいて、豪雨域の降水が風下側へ分散され、局所的な降水集中が緩和される効果を確認しました。また、より現実的なシーディング表現を目指して、エアロゾルを予報変数として扱うことが可能な雲微物理スキームを実装し、これを改変することで、シーディング数値実験を行うための基盤も整備しました。
加えて、2025〜2026年冬季には、富山湾において航空機を用いた雲シーディング予備実験を実施しました(例えば図3)。この実験では、航空機の手配・調整、シーディング手法の検討、対象雲の選定など、実際の気象介入に必要となるオペレーション上の課題を整理しました。これに関連して、富山県入善町に観測サイトを整備し、偏光ライダ、ドップラーライダ、マイクロ波放射計等を用いた観測を実施しました。これにより、2030年頃の実際の気象制御実験に向けて、数値実験だけでなく、屋外観測・実験を含む技術的・運用的な知見の蓄積が進みました。



3. 今後の展開
今後は、再解析データや衛星降雨観測データを用いて多数の豪雨事例を抽出し、開発中の気象介入効果インデックスを適用することで、気象介入効果が現れやすい気象条件や発生頻度を統計的に評価します。また数値実験を継続し、様々な気象介入の効果とその限界を比較します。さらに、富山湾での屋外予備実験・観測結果を踏まえ、2026〜2027年冬季の実験計画を具体化し、航空機観測・地上観測・数値モデルを連携させた評価体制を整備します。