成果概要
気象制御のための制御容易性・被害低減効果の定量化[7] 法的課題の解決
2023年度までの進捗状況
1. 概要
本研究開発テーマは、気象制御手段の実験および実装をめぐる法的障壁を洗い出し、気象制御手段に特有の条件を法制度に反映させるための方法や、気象制御手段の負の影響に対する補償の仕組みなどを立案するために、主に文献調査に依拠しながら、災害対策関連法制およびそれらをめぐる理論的思潮について、整理ないし検討を行っています。具体的には、①水災害対策関連法制における手続法上・組織法上の論点整理、②水災害応急対策の個別的検討、③わが国の治水政策をめぐる理論的思潮の明確化、④気象制御に資する保険制度の検討、⑤気象制御に資する国家補償の仕組みの省察などを実施しています。これらの成果を踏まえて、気象制御に関する法的課題の解決にとって必要なアクションプランの策定を目指しています。
2. これまでの主な成果
- ① 水災害対策関連法制における手続法上・組織法上の論点整理
- 主に、(a)気象業務法における予報業務許可の法的性質、(b)水災害対策関連法制における市町村長の法的地位について検討しました。(a)について、国等が行う予報を補完する局所的ニーズの高まりなどを踏まえて行われた最近の許可基準の改正を経てもなお、国際機関における気象業務の均質性確保、確実な実施を当該許可制度の趣旨とすることに揺らぎはないことを確認し、気象制御の国際的調整における気象庁(長官)の一定の役割について示唆を得ました。他方で、(b)について、今世紀における水防法の逐次改正を受けて広範化していること、特に、福祉と防災を切れ目なく連結させる災害対策基本法上の仕組みにおける市町村長の権限などに照らせば、気象制御が求められるような大規模水害事案においても、市町村長の権限との調整が不可欠であることを確認しました。その他、(c)理論研究の蓄積が少ない各都道府県水防計画の比較検討を継続中であり、国土交通省の緊急災害対策派遣隊(TEC-FORCE)との連絡調整にかかる記述の少なさが明らかになっています。
- ②水災害応急対策の個別的検討
- 緊急時に判断を的確に行うためのダム操作ルールについて、下流の状況や他のダムの状況を考慮しながら行う「統合操作」が近年実施されていること、事前放流による損失補償が行われていることなどを念頭に置きながら、河川法を起点として体系的に整理しました。その際、ダム操作規則/規程の策定に当たり、利害関係人の意見を反映させるための協議手続を経ることになっている旨を特に確認しました。
- ③わが国の治水政策をめぐる理論的思潮の明確化
- 明治以降の治水計画の変遷を整理し、人間の住まい方や流域の保全も洪水リスク管理の視点から見直されることとなっている現在において、洪水リスク管理の関係主体を広範囲に捉えると同時に、その管理手法も網羅的に取り入れようとする考え方が芽生えており、気象制御を一手法として受け入れる素地ができ始めていると言えることを明らかにしました。
- ④気象制御に資する保険制度の検討
- わが国の火災保険水災補償条項、特に全国一律の水災料率の細分化に関する議論を分析しました。その過程において、保険料率のリスクアナウンスメント効果および減災の取組みを促すインセンティブ効果の不明瞭さなどを明らかにするとともに、私的自治の原則に基づいて運営される私保険として捉えられてきた火災保険の水災補償が「公保険」に接近しつつあるかもしれないという観方を提示しました。
- ⑤気象制御に資する国家補償の仕組みの省察
- 国家補償関係規定を置く個別法を網羅的にリストアップした上で、国家補償の谷間に関する予防接種法の立法趣旨、仕組み、運用等を分析しました。その結果、多岐にわたる被害が想定される気象制御の場合には、予防接種の場合以上に因果関係の認定、補償額の決定等に困難が予想されることを明らかにしました。
国家補償関係の規定を置く個別法 | |
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国家賠償 |
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損失補償 |
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国家補償の谷間 |
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3. 今後の展開
海外の関連法制、水災害に係る判例、各種条約に準拠した規制手段、損害賠償責任保険契約および損害賠償補償契約の特則等を定める宇宙活動法などを参照しながら、2.で挙げた検討をさらに深掘りしていく予定です。