成果概要

気象制御のための制御容易性・被害低減効果の定量化[7] 法的課題の解決

2024年度までの進捗状況

1. 概要

本研究開発項目は、前年度に引き続き、気象制御手段の実験および実装をめぐる法的障壁を洗い出し、気象制御手段に特有の条件を法制度に反映させるための方法や、気象制御手段の負の影響に対する補償の仕組みなどを立案するために、主に文献調査に依拠しながら、災害対策関連法制およびそれらをめぐる理論的思潮について、整理ないし検討を行っています。具体的には、

  • ①小規模屋外実験に関するELSIの抽出
  • ②水災害応急対策の個別的検討
  • ③アメリカ洪水保険制度の制定経緯および課題の考察
  • ④河川の安全性に対する住民意識の検討
  • ⑤気象制御に資する補償の仕組みの省察

などを実施しています。これらの成果を踏まえて、気象制御に関する法的課題の解決にとって必要なアクションプランの策定を目指しています。

2. これまでの主な成果

主に、実験の態様から地域レベルのリスクが生じる可能性があること、実験が社会の関心を集めるとCO2削減策への関心が薄れてしまう可能性があること、実験の場となることを忌避する者がいることを確認しました。

② 水災害応急対策の個別的検討

わが国の防災法体系は、比較法的にいえば、国と地方公共団体の間で責任と権限が複雑に分割された仕組みが顕著であること、同様に、市民参画の手法があまり整備されていないこと、さらに、気象制御が災害対策の現場性を重視せざるを得なかった既存の防災法体系に1種のブレイク・スルーをもたらす可能性があること、現行の洪水タイムライン(図1)を概観する限り、発災約12時間前までに気象制御が効果を発揮すれば、市町村の災害応急対応の軽減に大いに貢献できる可能性があることを特に確認しました。

③ アメリカ洪水保険制度の制定経緯および課題の考察

水害リスク軽減策としての土地利用規制を実施するインセンティブを与えるアメリカ洪水保険制度について、その制定経緯から考察し、当該制度の運用にもかかわらず、米国全体における洪水に対する財産の暴露はむしろ増加傾向にあることなどを明らかにし、新たな水害リスク軽減策の必要性を明らかにしました。

④ 河川の安全性に対する住民意識の検討

気象制御の実装可能性を検討するための前提作業として、住民が訴訟上河川管理者のいかなる行為を河川管理上の瑕疵と主張しているか、つまり、住民が河川の安全性としてどの程度を求めてきたのかを調査し、おおむね、(a) 河川改修の遅れや未実施を当該瑕疵として主張するもの、(b) 現に存在する河川構造物がその予定する安全性を有していなかったことを当該瑕疵として主張するものに大別できることを明らかにしました。

⑤ 気象制御に資する補償の仕組みの考察

被害に地域的な偏りがみられる点、健康被害との因果関係の証明には困難が伴うという点において気象制御と類似する側面がある公害健康被害に関する法律を省察して、同法が採用する因果関係の認定方法が気象制御の法制化において参照点となり得る可能性を明らかにしました。また、気象制御と同様に最先端の科学技術である原子力に関する損害賠償に係る法律を省察して、同法における賠償責任主体特定の仕組みや被害者の立証責任軽減の仕組みが気象制御の法制化において参考に値することも明らかにしました。

図1
図1 タイムラインの例(抄)

3. 今後の展開

関連法制、水災害に係る判例、各種条約に準拠した規制手段などを参照しながら、2.で挙げた検討やいわゆるデュアル・ユース問題などをさらに深掘りしていく予定です。