成果概要

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海上豪雨生成で実現する集中豪雨被害から解放される未来[2] データ駆動型気象予測手法の開発

2025年度までの進捗状況

1. 概要

線状降水帯などの極端気象現象に対するモデル予測制御を実現するためには、高速かつ高精度なデータ駆動型予測モデルを用いた効率的な数値実験が効果的です。
2025年度においては、2024年度までに開発したデータ駆動型の決定論的領域気象予測モデルを改良し、アンサンブル予測が可能な確率論的気象予測モデルを開発しました。モデル内の潜在変数に対する摂動付与またはBred Vector(BV)法を用いた摂動付与、予測結果と真値の確率分布のずれに対する損失関数等を組み合わせることで、初期値にガウシアンノイズによる摂動を付与した場合と比較してアンサンブルのスプレッド成長や豪雨イベントにおける過小予測において大きな改善が見られました。
また、データ駆動型予測モデルにおいて豪雨を抑制するための介入予測に関する研究を行いました。データ駆動型モデルに基づく降水制御において、拡散モデルのサンプリング過程を勾配により誘導する新たな介入枠組みを提案し、従来のように大気状態へ直接摂動を与えるのではなく、生成過程(拡散過程)の軌道を制御することで、大気分布との整合性を保った介入を実現しました。

2. これまでの主な成果

2024年度までに開発したSwin-Unetベースの決定論的な気象予測モデルを改良し、予測モデルへの入力変数またはモデル内の潜在変数に摂動を付与することでアンサンブル予測が可能な確率論的気象予測モデルとして、Swin-Unet-BVとProbabilistic Swin-Unetの2つを開発しました。Swin-Unet-BVは数値気象予測モデルによるアンサンブル予測でも用いられるBV法をデータ駆動型予測モデルに実装したモデルであり、Probabilistic Swin-Unetは、Unetにおける4ヶ所のデコーダ部の任意箇所に摂動付与するモデルです。特にProbabilistic Swin-Unetにおいては、予測結果と真値との誤差を定義する損失関数として確率的予測における出力結果の確率分布と真値の確率分布の一致度を評価する指標であるContinuous Ranked Probability Score(CRPS)を採用しました。両モデルともに初期値にガウシアンノイズによる摂動を与えた場合と比較して、いずれの物理量においてもアンサンブルのスプレッドが大きく成長を示すという結果が得られました。
開発したアンサンブル予測モデルの有効性を確認するため、九州地方における豪雨イベントを対象とした検証を行ったところ、CRPS損失を導入することで、決定論的モデルと比較して豪雨量の過少な予測を改善する効果が見られました(図1)。

図
図1:九州豪雨の3時間~24時間予測における降雨量の確率分布

また、拡散モデルをベースとしたデータ駆動型予測モデルに対する降水量低減のための介入手法を探索しました。提案手法では、拡散モデルのサンプリング過程を勾配によって所望の気象状態へと誘導する新たな枠組みを採用しています。AOWFのような大気状態に対して直接的に摂動を与える既存手法に対して、提案手法では生成過程(拡散過程)の軌道を制御することで、物理的整合性を保ったまま降水を抑制し得るという結果が数値実験から示されました。九州地方の豪雨を対象とした実験では、従来手法による介入後予測では九州地方の豪雨が消失していますが、このような状態が物理的に不自然であることを確認しています(図2)。一方、提案手法では、鉛直構造・変数別摂動、潜在空間での軌道逸脱、モデル間転移性の観点から評価を行い、AI気象予測モデルのベンチマークであるWeatherBench2の極端降水事例において、有効性と物理的妥当性の両立を示しました。

図
図2:九州豪雨の抑制における介入予測実験(左)介入前予測、
(中)既存手法(AOWF)による介入後予測、(右)提案手法による介入後予測

3. 今後の展開

複数シナリオでの大規模なアンサンブル予測データ生成を現実的な計算コストで実現するため、2024年度までに開発した代理モデルの高速化および省メモリ化のための技術開発を推進します。特に予測モデルへの入力変数の取捨選択やモデル内において有効なサブネットワークの抽出等により、予測精度を維持しつつモデルのパラメータ数削減を図ります。
開発したデータ駆動型モデルにおける効果的な介入予測手法については、射影付き勾配降下攻撃等の敵対的摂動技術を用い、介入量を可能な限り小さく抑えた介入の計算手法を開発します。このような介入の現実における実行可能性を高めるために、介入の量のみならず介入の単純さを考慮した正則化を導入した最適化手法も検討します。