成果概要
最終更新日:
海上豪雨生成で実現する集中豪雨被害から解放される未来[4] 気象制御計算システムの開発
2025年度までの進捗状況
1. 概要
気象制御の実現には、制御入力を与えた時に気象がどのように応答するかを予測し、いつ・どこで・どのような制御を行えば望ましい気象を実現できるかを推定する必要があります。しかし、現時点ではこれらを扱うことができる計算システムは存在しません。項目4では既存の数値天気予報システムをベースに、制御入力が気象に及ぼす影響をシミュレートするとともに、最適な制御入力を推定することができる気象制御計算システムの開発に取り組みます。
予測・制御計算の高速化にも取り組みます。気象制御の実現には、災害が発生する前に、そして適切な制御のタイミングを逃す前に、上に述べたような数値計算を解き終えねばなりません。しかし、気象予測に使われる数値モデルの実行には一般に多くの計算コストが求められます。現在の計算資源と主流の計算手法では、現実的な計算時間で計算を終えることは困難であることが想定されます。そこで、数理研究や深層学習により得られる代理モデルや潜在空間表現技術を、予測・制御計算システムに導入し、これにより、現実的な計算時間で制御入力の算出を実現するとともに、気象制御計算に有効な要素技術の評価を進めます。最新の計算技術である量子コンピュータも活用し、モデル予測制御やデータ同化の最適化計算をイジングモデルに帰着させ、量子アニーリングにより計算を高速化することを目指します。
適切かつ効果的に気象制御を実施するには、大気の高頻度モニタリングも必要になるでしょう。項目4では、どのような観測ネットワークが最適かについても検討を進めます。
以上を基に、2026年度までに、①最適な気象制御の推定と入力が可能な気象制御計算システムのプロトタイプを構築し、介入操作の最適化により陸域の集中豪雨が緩和可能であることを示し、②気象予測計算基盤から算出されるアンサンブル気象予測データに代理モデル・潜在空間表現技術・量子計算技術を適用し、制御入力計算を高速化させる技術を開発する、という目標を達成します。
2. これまでの主な成果
本プロジェクトが開始した2023年12月以降、項目4では、制御入力が気象に及ぼす影響の予測を可能にするシステム開発に注力しています。2023年度は、制御入力として洋上構造物を選択し、これを領域気象モデルで扱えるようアクチュエータ機能の実装を行いました。領域気象モデルとして理研が開発を進めるSCALE-RM(Nishizawa et al., 2015; Sato et al., 2015)を用い、モデル内地球表面に新たな抵抗力を加えることで洋上構造物による風の変化を表現しました。これをスーパーコンピュータ「富岳」上で実行できるように環境を整備し、制御を行った場合と行わなかった場合について実験を行い、シミュレーション結果を比較することで、制御の効果の検討を行いました。対象とする事例については、項目5と共同で調査を行い、項目4では平成27年9月関東・東北豪雨を対象に検討を進めています。検討の結果、洋上構造物を設置することにより、構造物の風下側に、24時間積算で20mm程度の雨域を生成することが確認されました。構造物の大きさに対する感度についても調査を行ったところ、大きい構造物ほど構造物のすぐ風下の降水量が多くなり、さらに風下側で降水量が減少することが確認されました(図1)。

いつ・どこで・どのような制御を行えば望ましい気象を実現できるかを推定する手法の開発にも取り組んでいます。2025年度は、これまで取り組みを続けてきた簡易気象モデルを離れ、実大気モデルにMPC(モデル予測制御)を実装しました。気象制御は、気象予測と一体になって行う必要があるため、既存の予測システムであるSCALE-LETKF (Lien et al., 2015)を用い、開発したシステムをSCALE-LETKF-MPCと命名しました。
本システムを、2021年8月九州豪雨事例に適用した例を以下に示します。この例では、図2の青枠内で気象制御を行い、橙領域における降水量の低減を目指しました。気象制御は、洋上構造物を設置することで行いました。この結果、制御しない場合と比較して、約20%の降水量を削減することができました(図3)。


3. 今後の展開
洋上構造物を用いた気象制御の実現には課題も多く残るため、他の手法(シーディングなど)を視野に入れ、いつ・どこで・どのような制御を行うべきかを推定する手法の開発を引き続き推進します。開発したシステムによる制御結果のロバスト性の検討や制御位置の最適化、さらにはこれらの計算を実時間内で解くための計算高速化などを進めていきます。