成果概要
気象制御のための制御容易性・被害低減効果の定量化[4] 気象制御計算システムの開発
2024年度までの進捗状況
1. 概要
気象制御の実現には、制御入力を与えた時に気象がどのように応答するかを予測し、いつ・どこで・どのような制御を行えば望ましい気象を実現できるかを推定する必要があります。しかし、現時点ではこれらを扱うことができる計算システムは存在しません。項目4では既存の数値天気予報システムをベースに、制御入力が気象に及ぼす影響をシミュレートするとともに、最適な制御入力を推定することができる気象制御計算システムの開発に取り組みます。
予測・制御計算の高速化にも取り組みます。気象制御の実現には、災害が発生する前に、そして適切な制御のタイミングを逃す前に、上に述べたような数値計算を解き終えねばなりません。しかし、気象予測に使われる数値モデルの実行には一般に多くの計算コストが求められます。現在の計算資源と主流の計算手法では、現実的な計算時間で計算を終えることは困難であることが想定されます。そこで、数理研究や深層学習により得られる代理モデルや潜在空間表現技術を、予測・制御計算システムに導入し、これにより、現実的な計算時間で制御入力の算出を実現すると共に、気象制御計算に有効な要素技術の評価を進めます。最新の計算技術である量子コンピュータも活用し、モデル予測制御やデータ同化の最適化計算をイジングモデルに帰着させ、量子アニーリングにより計算を高速化することを目指します。
適切かつ効果的に気象制御を実施するには、大気の高頻度モニタリングも必要になるでしょう。項目4では、どのような観測ネットワークが最適かについても検討を進めます。
以上を元に、2026年度までに、①最適な気象制御の推定と入力が可能な気象制御計算システムのプロトタイプを構築し、介入操作の最適化により陸域の集中豪雨が緩和可能であることを示し、②気象予測計算基盤から算出されるアンサンブル気象予測データに代理モデル・潜在空間表現技術・量子計算技術を適用し、制御入力計算を高速化させる技術を開発する、という目標を達成します。
2. これまでの主な成果
当研究プロジェクトが開始した2023年12月以降、項目4では、制御入力が気象に及ぼす影響の予測を可能にするシステム開発に注力しています。初年度は、制御入力として洋上構造物を選択し、これを領域気象モデルで扱えるようアクチュエータ機能の実装を行いました。領域気象モデルとして理研が開発を進めるSCALE(Nishizawa et al., 2015; Sato et al., 2015)を用い、モデル内地球表面に新たな抵抗力を加えることで、洋上構造物の効果を導入しました。これをスーパーコンピュータ「富岳」上で実行できるように環境を整備し、制御を行った場合と行わなかった場合について実験を行い、シミュレーション結果を比較することで、制御の効果の検討を行いました。対象とする事例については、研究開発項目5と共同で調査を行い、項目4では平成27年9月関東・東北豪雨を対象に検討を進めています。検討の結果、洋上構造物を設置することにより、構造物の風下側に、24時間積算で20mm程度の雨域を生成されることが確認できました。構造物の大きさに対する感度についても調査を行ったところ、大きい構造物ほど構造物風下の降水量が多くなり、さらに風下側で降水量が減少することが確認されました(図1)。

いつ・どこで・どのような制御を行えば望ましい気象を実現できるかを推定する手法の開発にも取り組んでいます。2024年度は、簡易気象モデルLorenz-96にモデル予測制御(MPC)を実装し、最適な制御入力を推定するシステムを開発しました。極端現象の制御可能性について調査を行い、先行研究よりも小さな制御入力で高い制御成功率を達成することを確認しました(図2:Kawasaki et al., submitted to NPG)。

MPCは計算コストが高く、そのまま気象予測に適用することは困難であることが予想されます。計算量削減のため、MPCをアンサンブル近似により効率化する手法の開発も行いました。Lorenz-63モデルを用いてその有効性の検証を行い、制御成功率について良好な結果を得ることが確認できています(図3:Kurosawa et al., submitted to NPG)。

3. 今後の展開
いつ・どこで・どのような制御を行うべきかを推定する手法の開発を引き続き推進します。2024年度は、扱いの簡単な低次元気象モデルを用いて手法開発を行いましたが、次年度以降は、これまでに得られた知見を実大気モデルに反映させることで、気象制御計算システムの開発を進めていきます。