成果概要

気象制御のための制御容易性・被害低減効果の定量化[10] 情報科学を活かした社会調査・発信

2023年度までの進捗状況

1. 概要

本研究開発項目では気象制御を実現する上で必要となる社会調査・発信を、情報科学を活かして推進します。深層学習や視覚情報処理技術を用いて、集中豪雨の生成過程や介入効果を4次元で可視化し、気象介入の影響を解析することで気象制御研究の加速を図ります。更に、この可視化システムを用いて、プロジェクトのアウトリーチ推進にも貢献します。
2023年度は、今後、気象制御研究の加速を図ることを目的とし、集中豪雨の生成過程や介入効果の可視化に取り組みました。どのような気象現象をどう可視化するのがよいか、主に研究開発項目5の気象研究者との相互理解を進めながら取り組みました。また、個別の開発項目として、① 集中豪雨の生成過程の可視化に資する気象観測データを選定し、その局所的な移流を抽出する技術として、数時間程度の範囲で局所領域の時間変化を表現する幾何変換を推定する技術を開発しました。また、② 気象に関する4次元データの可視化技術およびデバイスの技術動向調査を行いました。

2. これまでの主な成果

① 集中豪雨の形成過程についての気象学的検討に資する可視化を目指し、まずは局所地域での移流モデリングを試みました。気象観測データとして、全球の輝度温度観測を提供しているGlobal-merged IR productを対象としました。赤外観測画像に写った雲の輝度パターンを用いて、数時間程度の範囲で局所領域の時間変化を表現する幾何変換を抽出しました。具体的には以下の手順で実施しました。

  1. 温度に基づく雲領域の抽出前処理による観測値欠損補完
  2. 空間的な歪みを抑えるための接平面への射影(図1)
  3. 30分~4時間間隔で射影画像間での対応点推定(図2左)
  4. 対応点群からの幾何変換の推定(図2右)
図1: 局所領域の接平面への射影
図1: 局所領域の接平面への射影
図2: 時間間隔と推定された対応点・幾何変換数の分布
図2: 時間間隔と推定された対応点・幾何変換数の分布

② 集中豪雨の生成過程や介入効果の可視化を目的とし、気象モデルにおける3次元空間中の物理量の時間変化(4次元データ)をボリュームレンダリングによって表示するための視覚情報処理技術や表示デバイスの動向調査を行いました。具体的には、表示デバイスについて調査を実施し、代表的な4つのカテゴリ(非平面ディスプレイ、ヘッドマウント型ディスプレイ、空間再現ディスプレイ、超大型平面ディスプレイ)についてリストアップを行いました。さらに、得られた調査結果をグループ内で共有し、本研究課題において適した可視化技術および表示デバイスに関する議論を深めました。
また、研究開発項目5の気象研究者との情報交換を進め、集中豪雨の生成過程の可視化に資する気象データの検討を進めました。その結果、主に平賀優介氏(東北大学)が扱っているThe Weather Research and Forecasting (WRF) Modelの出力を受け取り、その中で降雨に関わる物理量の可視化に取り組むことになりました。

3. 今後の展開

2024年度までの目標として、気象介入の影響の解析に寄与することを目的とした可視化システムの構築を掲げており、これに向けて集中豪雨形成に関する4次元可視化技術の開発を進めます。可視化システムの活用を想定するユーザである気象研究者と定期的に情報交換を行い、対象とする気象現象および可視化手法について議論を行いながら進めます。可視化のアプローチとして、4次元ボリュームデータを直接可視化する方法と、3次元空間中の時間変化(移流)を抽出して可視化する方法の2種類を並行して進めます。まずは地域・時間を限定し、可視化システムのプロトタイプを作成します。
2024年度のマイルストーンとして、集中豪雨形成に関する4次元可視化システムのプロトタイプ・アプリケーションを開発し、限定的な地域・時間スパンにおける代表的な1事例について動画を作成します。