成果概要
気象制御のための制御容易性・被害低減効果の定量化[8] 経済被害推定
2024年度までの進捗状況
1. 概要
本研究開発項目は、気象制御を実施した際の経済被害低減効果を推定するために、日本国内全域を対象とした経済被害額の推定技術を開発しています(図1)。具体的には、①気象制御を実施した場合と実施しなかった場合での氾濫域や浸水深の変化を高解像度で推測できる、日本全国を対象とした洪水氾濫再現モデルの開発、②人口および民間資産・企業活動に関する各種統計データに基づく暴露資産データベースを構築し、日本全域の洪水被害を浸水深情報に基づき推定可能な経済被害額推定モデルの開発、③豪雨をトリガーとして生じる斜面崩壊現象を日本全国で再現・リスク推定するモデルの開発、の3課題を並行して実施します。開発した洪水氾濫再現モデル・経済被害額推定モデル・斜面崩壊リスク推定モデルを活用し、気象制御による経済被害低減効果の定量化を目指します。

2. これまでの主な成果
① 人工構造物による氾濫への影響のモデル化(課題8-1)
日本の河川は築堤や浚渫などの様々な人為的改変を受け続けているため、洪水氾濫再現モデルにおいても、河川の人為的改変を踏まえた現状を適切に反映する必要があります。2023年度は大河川と中小河川の間の合流点に設置された水門について、2024年度は水門に併設された支川・内水排水用の排水機場や不連続堤防について、管理者資料や航空写真などから日本全国でデータベースを作成し、開発中の日本全国を対象とした洪水氾濫再現モデルへの導入を行いました。また、多地点多イベントに対してロバストで空間的な一貫性を保ったモデルパラメタの設定を行いました(図2)。

② 暴露資産・被害関数データベースの構築(課題8-2)
2020年頃の日本全国を対象に、国勢調査・経済センサスをはじめとする政府統計情報、民間企業の作成する有償空間統計、および損保料率機構が集計している保険統計情報を用い、被災人口・民間資産の直接被害および間接被害に関する暴露資産(Exposure)データベースを構築しました。また、各種の財産ごとに浸水深・流体力に応じた被害割合を算出する関数である被害関数を、国内外の研究や公的な被害推定マニュアルに基づいて収集・整理を行いました。
これら収集した暴露資産・被害関数を用い、平成27年関東・東北豪雨による鬼怒川の氾濫をモデルケースとした検討から、被災世帯数や被災人口の推算に必要となる深水深の閾値の最適化を行い、また各種資産に最適な被害関数を選択しました。
③ 斜面崩壊リスクの評価(課題8-3)
豪雨がトリガーとなる斜面崩壊現象について、力学モデルとしてSLIPモデルを、確率モデルとしてロジスティックモデルを実装しました。2014年広島豪雨の実降雨を対象に精度検証を実施し、両モデルについて約80%の精度を持つことを確かめました。また、項目5での広島豪雨へのシーディングによる気象介入の結果に基づく斜面崩壊ハザードの変化の分析から、検討対象範囲において斜面崩壊ハザードが気象介入により減少することを示しました(図3)。

3. 今後の展開
洪水氾濫再現モデルと経済被害推定モデルの開発においては、モデル地方を対象に過去の主要な水害イベントを対象とした浸水領域・被害額の再現計算を実施します。また、実際の浸水被害に基づき、再現性の評価・検証を行います。
斜面崩壊リスク推定モデルの開発においては、力学モデルと確率モデルを組み合わせた高精度の斜面崩壊モデル推定手法を開発します。また、豪雨の空間分布によって斜面崩壊ハザードがどのように変化するかを検証します。