遺伝資源を利用する学術研究において遵守すべき点をまとめました。
現在あるいは将来的に価値があり、遺伝的単位を有する植物、動物、微生物その他に由来する素材(遺伝資源)を利用した研究活動において、研究者は、「生物多様性条約(CBD)」及び「名古屋議定書」等を遵守し、提供国の法規制の遵守と共に我が国で2017年8月20日に施行された国内措置(ABS指針)に適切に対処することが求められます。
SATREPSでは、プロジェクトの正式開始に当たり、JICAと相手国政府実施機関との間で合意する文書(Record of Discussions: R/D)、及び両国の研究機関間で合意する文書(Collaborative Research Agreement: CRA※、その他)の調印を義務とし、また、必要に応じて素材移転契約(Material Transfer Agreement: MTA)の締結を推奨してきました。これらは、CBDにおける「相互に合意する条件(Mutually Agreed Terms: MAT)」に相当すると考えられます。しかし、多くの国でABSに係る法規制の整備が進められている現状において、CBDにおける「事前の情報に基づく同意(Prior Informed Consent: PIC)」の取得が課題になることが想定されます。
このため、プロジェクト参画者が遺伝資源を入手し、研究・開発等に利用する際には、提供国の法規制等を事前に確認し、遵守することが求められます。提供国の法規制の確実な遵守、並びに遺伝資源の円滑な取得とリスク管理の観点から、研究者個人による対応よりも、 研究機関主体による対応が望ましいと考えられます。
※CRAについては、研究者向けマニュアルのCRAガイドラインをご参照ください。
提供国の法規制を遵守するにあたり下記の点にも注意が必要
提供国内における遺伝資源の取得と利用
海外(日本)への持ち出しを伴わなくてもPIC・MATが必要となる場合がある
薬草や農作物等に関連する伝統的知識の利用
先住民及び地域社会の承認及びプロジェクトへの参加、またPIC及びMATが必要となる場合がある
留学生・研修生による日本への海外遺伝資源の持ち込み
提供国の国民も提供国の法規制を遵守して遺伝資源を取り扱う必要がある
提供国ごとに生物多様性・ABSに関連した法規制の適用範囲、施行・整備状況が異なること、遺伝資源の定義・適用範囲が不明確であることなどから、研究者個人の情報収集及び判断では解決できない事案の発生が十分に想定されます。このような状況を踏まえ、海外の遺伝資源を利用した研究活動を実施する際は、事前に各研究機関の担当部署に相談すると共に、ABS学術対策チームが提供している情報(名古屋議定書に関する大学等における体制構築ハンドブック、その他)や相談窓口を利用することを推奨します。
※相談窓口では秘密厳守で個別相談に応じています。
"遺伝資源へのアクセスと利益配分(ABS)"に
ついてのご質問はこちら"
生物の多様性に関する条約の下の遺伝資源へのアクセスと利益配分(ABS)の基本について解説した動画をご紹介します。 (一般財団法人バイオインダストリー協会 生物資源総合研究所 作成)
2023年3月公開
2021年6月9日に実施したABS講習会のスライド資料を参考情報として公開します。
講師:井上 歩(一般財団法人 バイオインダストリー協会 生物資源総合研究所 所長)
講師:鈴木 健一朗(東京農業大学 応用生物科学部 客員教授)
講師:渡邉 和男(筑波大学 つくば機能植物イノベーション研究センター 副センター長・教授)